可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 林香苗武個展『夜の炎』

展覧会『林香苗武個展「夜の炎」』を鑑賞しての備忘録
ギャラリー トウドにて、2019年12月13日~28日。

林香苗武の絵画展。

会場の一番大きな壁面に掲げられているのは、ギリシア神話ペルセウスに取材した3作品。中央には、首を斬られたメデューサの寝そべる姿勢の白い裸身と、その足下に置かれた頭部とが描かれる。メデューサの頭部はコンスタンティンブランクーシの《眠れるミューズ》を思わせる、穏やかな表情を持つ。やや傾いた形で両足が三角形をなすように開かれ、右足の膨ら脛に鼠径部を覆うような形で置かれている。身体と頭部とが産む静謐な雰囲気の背後には斬首の光景があったことが、鮮やかな赤い背景と首に滴る血とが表している。左手には、飛翔するペルセウスを、アンリ・マティスの《ポリネシアの空》を思わせるような海から描いた構図。というのも、画面を縁取る炎のような表現は、メデューサの血が変じた珊瑚にも見えるからだ。右手にNTTのマークを思わせる形の大海蛇を退治する叩き切るペルセウス。大海蛇の動きの速さを超高速シャッターでもとらえられないかのような表面で表現する一方、ペルセウスの振り下ろす剣が一刀両断にする様は静止的である。速すぎると止まっているように見えてしまうものだ。NTTのマークには無限のループが象徴されているらしいが、ペルセウスは負の連鎖を断ち切る役割を担わされているのだろうか。神話のキャラクターを現代に召喚し、キレのある表現で、見る者を瞬時にとらえて離さない。メデューサ的絵画の展観だ。

断頭は残忍でありながら効率的だという矛盾がある。凶暴で野蛮な行為であるはずなのに、切り落とされる頭部に独特な生物学的特徴があることから人々は無関心でいられず、そのことが断頭を魅力的なものにしてしまうという矛盾もある。都会化された民主的な社会であっても、人々はそのショーを見たがる。同様に、切断された頭部はしばしば人々を団結させる。人々の心を遠ざけるというより、むしろい集めて奮い立たせる力を有しているのである。断頭は究極の暴力だ。と同時に、創造的でもある。なぜなら、断頭は、あらゆる残虐性を包含しているからこそ、好むと好まざるとにかかわらず人々の関心を引かずにいられない、強烈な作品を生む土台になるからだ。(フランシス・ラーソン〔矢野真知子訳〕『首切りの歴史』河出書房新社/2015年/p.30)