可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』

映画『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』を鑑賞しての備忘録
2018年のフランス映画。
監督は、ニルス・タベルニエ(Nils Tavernier)。
脚本は、ファニー・デマール(Fanny Desmarès)、ニルス・タベルニエ(Nils Tavernier)、ロラン・ベルトーニ(Laurent Bertoni)。
原題は、"L'Incroyable Histoire du facteur Cheval"。

ジョゼフ・フェルディナン・シュヴァル(Jacques Gamblin)は郵便配達員。毎日数十キロの道のりを歩いて手紙を届けて回っている。人付き合いが極度に苦手なために変人扱いして遠ざける人もいるが、郵便局長のオーギュスト(Bernard Le Coq)は彼の誠実な人柄を評価し、宛先不明の絵葉書などがあると彼に取っておいてやるなどしている。孤独な配達業務の最中、絵葉書や新聞に掲載された風景写真を眺め、想像を膨らませながら歩くのがジョゼフの楽しみだった。フランスの勢力下にあったインドシナ半島アンコール・ワットの壮麗な寺院建築はとりわけジョゼフの心に強い印象を残していた。ジョゼフの妻ロザリー(Melanie Baxter-Jones)が亡くなると、仕事で10時間も家を空けるジョゼフに子育ては無理だろうと、息子シリル(Milo Mazé)が親戚に預けられることになる。失意のジョゼフだったが、配達地域が変更になって、農家の未亡人フィロメーヌ(Laetitia Casta)と知り合うことになった。村人たちの人間関係にうんざりしていたフィロメーヌは、口数は少なく生真面目なジョゼフに惹かれ、二人は結婚することになった。娘アリスが生まれると、ジョゼフはどう接していいか分からず戸惑う。フィロメーヌはジョゼフに娘と接する機会をつくってやり、次第にジョゼフは娘に対する愛情を示すようになる。配達中、山道で石に躓いて斜面を転がり落ちたジョゼフは大怪我を負ってしまう。転倒の原因となった石の不思議な形に興味をそそられたジョゼフはそれを掘り出し、家に持ち帰る。フィロメーヌは呆れるが、ジョゼフの中にはその石をきっかけに実現すべき目標が生まれる。ジョゼフはアリス(Lilly-Rose Debos)に宮殿をつくると宣言するのだった。

建築物のイメージと、パン屋で修行をした経験をもとに、拾ってきた石とモルタルで壮大な宮殿を一人で造り上げていった郵便配達員シュヴァルの物語。毎日数十キロの道のりを歩き続けるシュヴァルのひたむきさと娘に対する愛情とが、思い描いた理想の宮殿の実現へと邁進させる。妻フィロメーヌの理解と献身とがあってこそ希有なプロジェクトが実現することになる。
人付き合いが下手で生きづらさを感じ、周囲に広がる自然と星空と空想とに思いをはせるジョゼフをJacques Gamblinが真に迫る姿に表している。そして、その偏屈なジョゼフの真価を見出し、暖かく見守るフィロメーヌをLaetitia Castaが好演している。ジョゼフとフィロメーヌ、ジョゼフとアリス(Zélie Rixhon)とのシーンはいずれも心に残るシーンになっている。