可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 川野美華個展『Kein Zutritt』

展覧会『川野美華展「Kein Zutritt」』を鑑賞しての備忘録
日本橋高島屋美術画廊Xにて、2020年1月8日~27日。

川野美華展の絵画展。

ゆがめられたり引き延ばされたりした身体や器官のイメージからはフランシス・ベーコンを、画面に何かを貼り付ける技法や人なつっこさからは桂ゆきの作品を想起させる。人体や生物などの生命を感じさせるモティーフを扱いながら、それらが現実的な形態から離れさせることでダーク・ファンタジーの世界を立ちあげている。だが、その世界に暗さはなく、むしろ明るさを感じる。その相反するイメージの同居は、展覧会のタイトルを「立ち入り禁止(Kein Zutritt)」にしてしまう諧謔からも偲ばれよう。絵画は視覚=非接触知覚の芸術であり、その作品に触れることはできない以上、およそ絵画作品は「立ち入り禁止」だとも言える。だが、触覚に訴えかけるモティーフを描きこむことで、視覚を通じて絵画に「触れる」仕組みを用意している。その仕組みとは触角のように伸ばされた目、舌、つけまつげなどオブジェの貼り付けである。山が雲に覆われようとしている様を描いた《Die Wolke isst den Berg.(雲が山を食べる。)》と題された作品が象徴的だ。手につかむことができないが目にすることはできる雲は視覚を、山は世界=対象を表す。視覚によって対象をとらえる。のみならず、画面には、雲の持つ手の存在が示されている。視覚と触角とが手をつなぎ、世界を飲み込む。絵画によって世界=対象を我が物としてしまうのだ("Die Wolke ist den Berg.(雲は山である。)")。そう気づいたときには既に鑑賞者は作者に包摂されてしまっているだろう。