可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 平子雄一個展『Memories』

展覧会『平子雄一「Memories」』を鑑賞しての備忘録
WAITINGROOMにて、2019年12月21日~2020年1月26日。

絵画「Perennial」シリーズ、やきもの「Compost」シリーズを中心とした平子雄一の作品の展示。

絵画《Perennial 6.Nov》は、部屋の中央に大きなテーブルを配し、その上に植物が活けられた壺などが所狭しと並べられている。その脇には作者の分身である樹木のような頭部を持った人物がソファに腰掛けている。椅子に乗った猫や、フクロウを乗せた擬人化された樹木も、テーブルを囲んでいる。鉢植えの背の高い木は枝先が照明となっていてテーブルを照らしている。壁に掛けられた丸い画面の絵画は、月や星が輝く夜空を背景に頭に花瓶を載せた白猫の肖像画で、窓からのぞく明るい満月と呼応している。室内に存在する多くの植物が外に広がる空間とを緩やかにつなぐ。人物・猫・花器がいずれも椅子に座ることで平等な関係を築く。何より樹木の頭部を持つ人物が人間と自然との関係を曖昧にする。アンリ・マティスの作品のように、対象に向けられた複数の視点が画面の上に混在するものの、異種が調和した世界は違和感を生まない。

会場の中央には木の板を貼り合わせた四角柱の構造物が設置されている。板は精緻に並べられることなく、ところどころゆがんで張り合わされ、突き出した板はやきものを載せる台として機能している。絵画は木枠に張られることなくキャンバスのまま貼られている。木枠からキャンバスが抜けだし、キャンバスからやきものが逃げ出し、木枠・キャンバス・やきものが新たな関係を築こうとしている。

会場の壁面も、グレーに塗り込められた部分から、徐々に塗り残しの割合が増えていき、白い壁面へとグラデーションになっている。境界を溶かしてしまい、緩やかに違う世界を行き来しようとする作者の姿勢がここにも示されている。


会場の隅に置かれた、《Compost 85》は樹木の頭部を持つキャラクターなのだが胴部が長く、グスタフ・クリムト肖像画を連想させた。
"Perennial"は「多年草」の意。