可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 西野達個展『やめられない習慣の本当の理由とその対処法』

展覧会『西野達「やめられない習慣の本当の理由とその対処法」』を鑑賞しての備忘録
ANOMALYにて、2020年1月25日~2月22日。

 

表題作の《やめられない習慣の本当の理由とその対処法》は、切断された自動車の上に冷蔵庫、棚、ベッドやソファなどが積み上げられ道路照明灯によって串刺しにされているオブジェ。ナントの街中に立つ彫像に机やオルガンやベッドを積み重ねた写真作品《The Life's Little Worries of Général Mellinet》や、幹や枝に仏像を彫った植木が周囲に展示されていることもあり、頭上に灯明を重ね置いた天燈鬼を想起しないわけにはいかない。「自灯明」ないし「法灯明」の現代的寓意。だがいくら道路照明灯だからと言って「道を照らす」などと道学者気取りの解釈は、与謝野晶子に作品の「あつき血汐」に触れていないと叱責を受けるかもしれない。画像処理ソフト上のカットアンドペーストによる描画のような観念操作を揶揄し、「知行合一」の芸術的実践を突きつけてくる作品と、ストレートに捉えるべきなのかもしれない。

畳のある部屋で白のTシャツにデニムのパンツの女性が両手を広げて立っている。足の下にはヘルメットなどが積み重ねられ、頭上にはペンダントライト(天燈鬼!)に加えて自転車までが載り天井まで達している。広げた右手の先には椅子や電気ポットなどの日用品によって壁まで達し、左手の先にはソファがガラス窓のサッシにまで及んでいる。この大判の写真作品《女神》は、カリアティード(女像柱)を模した人物の肖像である。建物の外側ではなく室内に、彫像ではなく生身の人間というように、転倒されている。また、この作品の左側には、対となる写真作品が展示されており、食卓のレタスの入ったボールに頭を突っ込み、倒立して、野菜を足の裏に載せて天井まで伸ばした男性の肖像写真が展示されている。こちらはアトラス(男像柱)であるが、天の蒼穹を支えることなく、個人の部屋を維持するのに必死である。かつて世界観を表していた地図(=アトラス)が、個人の目的や興味に合わせて、点と点との最短距離をつなぐプライベートなツールへと矮小化された現実を提示し、諧謔味をもって視野狭窄を訴える。