映画『37セカンズ』を鑑賞しての備忘録
2019年の日本・アメリカ合作映画。
監督・脚本は、HIKARI。
脳性麻痺で手足に障害を抱える貴田ユマ(佳山明)は、連載は1本ながらそのヴィジュアルでSNSに10万人のフォロワーを持つ漫画家SAYAKA(萩原みのり)のアシスタントをしている。だが、実際は、友人であるSAYAKAは作品の世界に合った漫画家を演じているだけで、ユマが作品を制作していた。SAYAKAはユマの何の要求もできない性格をいいことに、原稿料のほとんどを自分のものにして、華やかな漫画家として振る舞っている。夫と別れて一人でユマを育ててきた恭子(神野三鈴)はユマのことが心配でならず、23歳になった今でもできる限り駅への送り迎えを行い、風呂に入れ、食事を食べやすいように細かく切り分ける。かねてから独り立ちしたいと願うユマは、ある日SAYAKAの担当編集者(宇野祥平)に「自分の」作品を見てもらうが、事情を知らない彼はSAYAKAの作風に似すぎてオリジナリティーがないと評価しない。失意のユマは偶然公園で捨てられていた成人漫画誌を目にし、アダルト作品に活路を探る。滅亡の危機にある宇宙人が子孫を残すために地球で最も優秀な遺伝子を手に入れようとするというストーリーの作品を描いたユマは、唯一持ち込みを認めてくれたBOOM誌編集部を訪ねる。対応した編集長の藤本(板谷由夏)は絵もストーリーも評価するが肝心の性描写が頂けないと、ユマにセックスの経験はあるか尋ねる。経験がない限りリアリティのある作品は描けないから、経験を積むことができたらまた描いて持ち込むよう伝えてユマを帰す。思い詰めたユマは歌舞伎町に向かい、道行く男性に声をかけるピンクの法被の男(渋川清彦)に男性を紹介して欲しいと頼む。ヒデ(奥野瑛太)を紹介されたユマは60分2万円で相手を頼む。だがヒデからは理由をつけて拒絶されてしまい料金だけを取られてしまう。一人シャワーを浴びて部屋を出たものの、エレベーターが故障していてホテルを出ることができない。ユマが途方に暮れていると、電動車椅子の男(熊篠慶彦)とその車椅子に無理矢理相乗りしている女(渡辺真起子)がエレベーターにやって来る。事情を理解した女は、若い男(大東駿介)を電話で呼んでユマがホテルから出るのを助けるのみならず、駅まで車で送ろうと申し出てくれるのだった。
冒頭、風呂に入れられたユマ(佳山明)が母・恭子(神野三鈴)からそろそろ髪の毛を短くしなくちゃと言われたときに発する「伸ばしたいなあ」の科白から、ユマのか細い声が胸にグサリと突き刺さる。そこから次から次に降りかかる災難に耐えるユマの悲痛さに、ユマの声が追い打ちをかけるように観る者に迫ってくる。最後までユマの声は響き続ける。
恭子(神野三鈴)やSAYAKA(萩原みのり)がユマが抜け出したい環境をしっかりつくりあげている。
好人物過ぎる設定ではあるが、渡辺真起子が気っ風のいい「姉御」を格好良く演じて説得力がある。
作品を動かすきっかけとなるという点で仕方がない点もあるのかもしれないが、編集長の、作家は経験がないといい作品は描けないという科白は陳腐。編集長の役がはまる板谷由夏だけに、もっといい科白を用意してあげて欲しかった。
ビルのキャラクター化は面白かったが、ユマともっと噛み合わせる設定が欲しかった。