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芸術鑑賞の備忘録

映画『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』

映画『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』を鑑賞しての備忘録
2019年のドイツ・フランス合作映画。
監督・脚本は、ファティ・アキン(Fatih Akin)。
原作は、ヘインズ・ストランク(Heinz Strunk)の小説"Der Goldene Handschuh"。
原題は、"Der Goldene Handschuh"。

1970年のハンブルク。屋根裏部屋の寝室。ベッドの上には下着をのぞかせた女性が横たわっている。フリッツ・ホンカ(Jonas Dassler)が覆い被さり、女性の遺体を袋に入れようと苦労する。やっとのことで袋に入れ終えたホンカは、遺体を捨てに行こうと階段を降りようとするが、頭部が階段に当たるたびに大きな音を立てる。物音に気付いた階下の少女が扉を開けてホンカの姿を目にする。ホンカは少女を追い立てると、再び遺体を部屋に運び込み、切断を開始する。ホンカはトランク・ケースにしまった遺体を捨てに行く。新聞が、娼婦の遺体の一部が発見されたとの記事を掲載する。
4年後。ギムナジウムで留年を言い渡されたペトラ(Greta Sophie Schmidt)が一人帰宅しようと駐輪場に向かうと、線の細い男の子(Tristan Göbel)から空気入れを借りたと声をかけられる。ヴィリーと名乗る少年は3ヶ月前に裕福な家庭が多い地区の学校から転校してきたという。留年を告げると同学年だと喜ぶ。二人はカフェの前を通りがかり、ヴィリーが何か飲もうと誘う。ペトラがコーラを求めると、ヴィリーは店内に消える。タバコを取り出したペトラに火を差し出したのは、ホンカだった。ホンカはペトラの肉感的な姿を目に焼き付ける。ヴィリーからコーラを差し出されたペトラは、一口だけ飲むと、ヴィリーを置いて去って行く。
ホンカは、行きつけの場末のパブ「黄金の手袋(Goldene Handschuh)」のカウンターで一人酒を飲んでいる。店にいる娼婦に酒をおごろうとするが、彼の容貌を見た女性たちから次々と断られてしまう。だが、一人の年老いた女性ゲルダ(Margarete Tiesel)だけは、ホンカの酒を受け取る。ホンカは屋根裏部屋へゲルダを連れて行くことにする。

 

場末の娼婦からも相手にされないフリッツ・ホンカが、劣情と刃とを高齢の娼婦たちに向け、遺体の腐臭を階下のギリシャ人の食習慣のせいにする。弱い立場の人間がより弱い立場の人間を虐げたり嫌悪したりする構図がまざまざと描かれる。それでも場末の酒場の店名"Der Goldene Handschuh"をタイトルに掲げているように、場末の人々を受け容れようとする姿勢を示している。
断ち切れないアルコール依存の恐怖を描いている作品とも言える。
ペトラのエピソードを組み込むことで、うまく見せ場を作っている。ヴィリーとノーバートの掛け合い(ノーバートが一方的にかけているだけ?)はどうして思い立ったのだろうか。
残虐なシーンは極力控えられているとは言え、見る人を選ぶ作品。ファティ・アキン監督作品ならコメディ・タッチの『ソウル・キッチン(Soul Kitchen)』(2009)やサスペンス『女は二度決断する(Aus dem Nichts)』(2017)をお薦めしたい。