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芸術鑑賞の備忘録

映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』

映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』を鑑賞しての備忘録
2018年のアメリカ映画。
監督は、ジャスティン・ケリー(Justin Kelly)。
原作は、サバンナ・クヌープ(Savannah Knoop)の回想録"Girl Boy Girl: How I Became JT Leroy"。
脚本は、ジャスティン・ケリー(Justin Kelly)とサバンナ・クヌープ(Savannah Knoop)。
原題は、"Jeremiah Terminator LeRoy"。

サヴァンナ・クヌープ(Kristen Stewart)は実家を出て、サンフランシスコで新生活をスタートさせる。12歳でギターを始め、現在はバンドを組んで音楽活動を行っている兄ジェフリー(Jim Sturgess)に車を出してもらい、まずは兄の住まいへと向かった。そこで兄のパートナーで作詞もしているローラ・アルバート(Laura Dern)に出会う。ローラはサヴァンナの銀色のナップザックを褒める。防水アルミテープで作っただけだというサヴァンナに、その何かを生み出そうとする力を大切にするよう告げる。ジェフリーとローラは仲間内で行うパーティーサヴァンナを連れ出し、サンフランシスコでの最初の夜を楽しんでもらうことにする。パーティーの帰りの車で、ローラは不満を述べる。話題の中心をさらったのがアートとしての才能ではなく容貌だけの女性だったと。ローラは「ジェレマイア・ターミネーター・リロイ」名義で出版した小説『サラ』がベストセラーとなっており、才能を自負していた。ジェフリーはそれなら正体を明かせばいいと宥める。ローラは、コレットなど女流作家の話題を通して自作を理解してもらえると踏んで、サヴァンナに『サラ』を渡す。『サラ』は少年が少女に扮して身体を売るストーリーで、実話に基づくものとされていた。本のジャケットにある作者の肖像には古写真が借用されていた。ローラに言わせれば、真実を上回る真実がそこにはあるという。テレフォン・セックスではなく小説で生計を立てたいという野心から、ローラは、ヴィジュアルで鮮烈な印象を与え、世間の注目を集めようと目論む。髪をベリーショートに刈り込み、スポーツブラで胸の膨らみを目立たないようにしているサヴァンナのスタイルは、少女のような少年J・T・リロイのイメージに極めて似つかわしかった。ウィッグとサングラスを付けさせて撮影したサヴァンナの肖像写真は早速メディアの関心を呼んだ。レストランでサーヴィスの仕事をしながら一人暮らしを始めたサヴァンナは、ある日、ローラから呼ばれる。J・T・リロイのインタヴュー記事が雑誌に掲載されることになったのだが、その誌面用に写真が必要なのだという。ローラは過去のインタヴューの録音をサヴァンナに聞かせて口調を覚えさせ、サヴァンナをJ・T・リロイとして即席で仕立てる。自宅に写真家のブルース(David Lawrence Brown)を招き入れたローラは、J・T・リロイのアシスタント「スピーディー」として撮影に立ち会う。吐き気を催すほど緊張して辛くも撮影を乗り切ったサヴァンナに対して、ローラは大いに満足していた。そして、後日掲載誌を目にしたサヴァンナも、その出来映えに満更ではない感覚を抱くのだった。

 

Kristen Stewartがボーイッシュな少女を熱演しており、それだけでも見る価値がある。
ローラ・アルバート(Laura Dern)については、その小説『サラ』とも絡めて生い立ちなどが明らかにされ、屈折した性格がある程度理解できる。だが、サヴァンナ・クヌープ(Kristen Stewart)については性格が十分に描かれておらず、「作家のアヴァター」を担うアヴァターと堕し、その心境を推し量ることが難しい。この作品が精彩を欠いている理由はそこにある。