可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『青木野枝 霧と鉄と山と』

展覧会『青木野枝 霧と鉄と山と』を鑑賞しての備忘録
府中市美術館にて、2019年12月14日~2020年3月1日。

青木野枝の彫刻展。彫刻17点を中心に、版画やドローイング、スケッチブックを関連資料として紹介。

吹き抜けの空間となっているエントランス・ロビーに、《霧と山‐Ⅱ》(2019)が設置されている。鉄の円の土台に5本の鉄の棒が60度以上はあろうかという急傾斜で立てられ、頂部の小さな鉄の円に向かって円錐のように組まれている。頂部に近い位置からは半透明の波板が垂らされている。中腹から頂上に向かって霧がかかるイオメージだろうか。同様の形のものが一対で並べられている。企画展示室1の《霧と鉄と山‐Ⅰ》(2019)は、鉄の輪を組み合わせることでやはり円錐状の形を作っている。《霧と山‐Ⅱ》が塔に近いスマートな形状であったのに対し、こちらは長い歴史を経て緑に覆われた円墳のような小高い丘の姿を見せている。その山頂は天井に近い位置に達している。組み合わされた鉄の輪の中には、曇りガラスや気泡の入ったガラスがはめ込まれたものが含まれている。ガラスの壁面展示ケースの中には、半透明の波板が掛け軸のように並べられている。霧に包まれた空間の中に山が屹立している。床には逆さ富士よろしく作品が映り込み、水面を思わせる。水鏡、波板、霧という水の縁語による循環のイメージが、黒鉄とプラスティックの枯山水を取り巻く。
企画展示室3の《霧と鉄と山‐Ⅱ》(2019)は、鉄の輪で構成された「山」から、噴煙のイメージなのか、ラッパ状の構造が頂部に近いところから左右に突き出していて、それが作品に愛嬌を持たせている。鉄の輪の一部にはめ込まれたガラスには黒色のものが用いられている。《霧と鉄と山‐Ⅰ》の静謐さと対比するとなおさら《霧と鉄と山‐Ⅱ》には火山の動きが立ち現れる。あるいは吽形と阿形と言い換えてもいいかもしれない。
《霧と鉄と山‐Ⅰ》(企画展示室1)と《霧と鉄と山‐Ⅱ》(企画展示室3)の間の
企画展示室2には雪のかまくらのような真っ白な《曇天1》(2019)・《曇天2》(2019)が設置され、黒鉄の山と黒白の対比を構成している。《曇天1》・《曇天2》や《原形質》(2012)といった石膏で覆われた作品を見ていると、牛島憲之の作品に通じるものを感じる。とりわけ牛島憲之の《かま場》(1958)には《霧と鉄と山‐Ⅱ》と呼応するように白い窯から立ち上る煙が描かれていて、常設展との響き合いが楽しい。
エントランス・ロビーの出入り口付近には色とりどりの石鹸を積み重ねたものを複数並べた《館山/府中》(2019)が展示されている。賽の河原の石積みであろうか。ここに水の流れ・循環(=「三途の川」)や繰り返し(=「石積み」)が鮮やかに予告されていた。