可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 久野彩子個展『line』

展覧会『久野彩子個展:line』を鑑賞しての備忘録
アートフロントギャラリーにて、2020年2月7日~3月1日。

代官山交番前の交差点に面するヒルサイドテラス内にあるアートフロントギャラリーには、旧山手通りから作品を見ることのできるガラス壁を持つ展示室がある。そこに積み上げられた古い箱や、木製の脚立、扉などが置かれているのが見える。近づいて見ると、それらの古道具に添えるように、金色に輝く鋳金作品が設置されているのが分かる。古道具を花器に見立てて花を活けたものや、欠けた茶道具の金継ぎを思わせるような作品群だ。古い木箱を積み重ねた作品には、部分的に隙間を埋めるように真鍮が埋め込まれ、一番上の箱にはスカイツリーを象ったものが立つ。古い家並みの密集した下町に真新しい電波塔が屹立した様を表すのだろうか。《35°42′36″N, 139°48′39″E》のようにタイトルがスカイツリーの所在地の座標(緯度・経度)で表されることで、オン「ライン」(on "line")での検索や地図、模型としての性格を引き出しながら、かえって数値に還元されないモノや場の力を呼び覚ます。経年変化した古道具には霊魂が宿り付喪神となるというが、鋳金依代になって古道具を再生させているのだ。そして、古い車輪に鋳金のレインボーブリッジを添えた《35°38′11″N, 139°45′50″E》を見て《柳橋水車図屏風》を想起しないわけにはいかない。禁色に輝くレインボーブリッジも金泥で描かれた宇治橋同様、対岸を目にすることはできない。向こう側にはその名の通り彼岸(=異界)が広がっているからだ。なお、新宿のビル群を表した《35°41′22″N, 139°41′30″E》(都庁の座標)において、脚立からビル群が浮いているのは、かつての水面(淀橋浄水場)の上に映える蜃気楼だからだろう。