映画『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』を鑑賞しての備忘録
2019年のフィンランド映画。
監督は、クラウス・ハロ(Klaus Härö)。
脚本は、アナ・ヘイナマー(Anna Heinämaa)。
原題は、"Tuntematon mestari"。英題は、"One Last Deal"。
長年ヘルシンキの目抜き通りに店を構えてきた美術商のオラビ(Heikki Nousiainen)だが、近年は資金繰りも厳しく、店をたたむことを考えている。同じ通りにあるオークションハウス「デュブロウスキラ」で大規模な売り立てがあることを知ったオラビは、商売仲間のパトゥ(Pertti Sveholm)ともに下見会に足を運ぶ。見事な男性の肖像画に目にしたオラビは、巨匠の作品に違いない掘り出し物だと確信する。パトゥが署名がないことを理由に危ない橋を渡らない方がいいと助言するが、オラビはマスターピースを落札して最後の一花を咲かせるという野心にとらわれていた。自宅に戻ると、娘のレア(Pirjo Lonka)からの電話が入るが、オラビは自動応答に任せて出ようとしない。妻を亡くして以来疎遠で、レアが離婚や家を失うときにも救いの手を差し伸べようとしなかったオラビには後ろめたさがあった。レアは息子オットー(Amos Brotherus)の課題である職業体験をオラビに頼もうとしてメッセージを残した。窃盗で補導歴のあるオットーには、オラビ以外に引き受け手が考えられなかったのだ。オークションが迫る中、オラビは署名のない肖像画のことで頭がいっぱいだった。肖像画の裏の紙の切れ端の「庭」という記載だけが手がかりだった。レアからは店にも電話が入っていたが、オラビは上の空で、実際に現れたオットーも追い返してしまう。だが肖像画について調査するには、店を空ける必要があった。レアの説得もあり、オラビはがさつな現代っ子のオットーを店番に据える。オラビが図書館で資料を漁っていると、オットーが現れる。店を放ってのこのことやって来たオットーに不満だったが、彼が絵画を設定価格より高く売ったことを知ると、オラビは孫の才覚に期待を寄せる。オークションが迫っていることもあり、オラビはオットーとともに資料を調べ始める。画集には該当する作品が見当たらなかったが、「庭」を冠したオークション・カタログの中に、ロシアの巨匠イリヤ・レーピンを扱った《キリスト》という記載が見つかった。だが、作品の写真図版はなかったため、オークションに出品された無署名の作品がレーピン作の《キリスト》であるとの確証は得られなかった。
美術商のオラビが自分の培ってきた眼を最後に試そうと奮闘する中で、自分と家族との関係を見つめ直す。
オラビの店にはトラムの振動が。また、画面にもトラムがよく映し出されるが、何か伝えようとするものがあるのだろうか(とりわけ、郊外のレアの家へ向かうバスや、オットー
が遠出するために乗るバスとの関係で)。
スウェーデン在住のコレクター(Stefan Sauk)の性格は、電話の対応や犬への接し方で表現されている。
レアが気に入っていた現代的・抽象的な聖母像はどうなった?