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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 スクリプカリウ落合安奈個展『Imagine opposite shore―対岸を想う』

展覧会『スクリプカリウ落合安奈「Imagine opposite shore―対岸を想う」』を鑑賞しての備忘録
銀座蔦屋書店アートウォールギャラリーにて、2020年2月27日~3月31日。

人々を「繋ぐ」と同時に「阻む」という海の役割に着目した写真「向こうの、うらがわ」シリーズ、「明滅する輪郭」、猿の姿を描きつつその中に人間性を表す絵画「mirrors」シリーズと、「明滅する輪郭」シリーズで構成される、スクリプカリウ落合安奈の個展。

「明滅する輪郭」は、モノクロームやセピアの古い写真の中の人物の顔に、ビニール袋を膨らませた形で被せて白い糸で縫い付けた作品。ビニールの膨らみが空気の存在を、そして頭部の位置に重ねられることで呼気を感じさせる。「明滅」というタイトルも、膨らみ萎むという連想から、呼吸へのイメージを強めるだろう。その結果、写真の中で動かない人物たちの生気が取り戻される。とは言え、例えば、映画『ペットセメタリー』が描くように、再生が必ずしも幸福をもたらさないとの教訓も滲む。なぜなら頭部にビニール袋を被せることが招く呼吸困難や窒息を強く意識させるからだ。また、本来鮮明であったであろう表情が、ビニールによって曖昧になる。集合写真でより鮮明になる通り、一様にビニール袋が被せられることで均質化され、個々の生のかけがえのなさが剥奪されてしまうのだ。対岸の(=過去に生きていた)人々の存在を生々しく蘇らせ(=命を点し)ながら、同時に抹殺し(命を滅し)てしまう(=対岸に送り返して)怖さがある。