可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 木下理子・中川トラヲ二人展『How I wonder what you are』

展覧会『ignore your perspective 54「How I wonder what you are」展』を鑑賞しての備忘録
児玉画廊にて、2020年3月7日~4月11日。

木下理子と中川トラヲの二人展。


木下理子の作品について

《mapping》は、アルミ箔で拵えた幅十数ミリの直線が、途中で直角に分岐しながらコンクリートの床に延びていく作品。光を反射する白い輝きは、灰色の地面に馴染んでいる。作者の展示空間に対するアプローチであり、どのようにデザインするかの思考の軌跡でもある。白川静は、首を携え修祓を加えながら開かれたと「道」の字の成り立ちについて説明したが、やや捻れるように波打つような線は、無機質なホワイトキューブを自らの作品世界へと作り替える作者による「呪」と解されよう。壁面にまで届かない形で終わっているのは、その行為が未だ持続していることの象徴である。それは"map"ではなく未完了形(=現在進行形)としての"mapping"がタイトルに採用されていることからも明白だろう。

《測量 #1》は、サイアノタイプ(青写真)による作品。青い画面上の白い点を白い線が結ぶ。星と星とをつないで見せる星図のようだ。白い点の部分には銀色に輝くアルミ箔の十字が置かれ、星の瞬きとも測量のための目印とも解される。大地の状況を把握するために象限儀などで天の星を追った、測量における天と地との反転と同時の繋がりは、サイアノタイプにおける原版と感光紙の明暗・図地の反転と同時の繋がりに呼応する。

《罠 #1》は、繰り返し表される波線がフォトグラム(レイヨグラフ)作品を連想させ、サイアノタイプが写真の系譜に連なることを思い出させる。だが、同じくサイアノタイプでも《curtain #17》の濃紺の画面に浮かぶ白い斑は、藍染(染物)や染付(磁器)を想起させ、アルミ箔で表された矢印のような線には、古唐津や志野に見られる軽妙洒脱な絵付を思わせる。夜の帷(curtain)が天球に引き下ろされる様を表すかのようだ。

サイアノタイプの《human error #1》には、辰野登恵子の作品に表される積み重なる形をイメージさせる上下に表された2つの台形が、互いの上底が衝突するかのように描かれたもの。同じくサイアノタイプ《塵埃 #1》では、構造物を示すような白線に白い点や線が表される。例えば意図せずカメラの中に入り込んでしまう塵のように、逃れることのできない存在を示すようだ。また「塵埃」が俗塵の意味合いで採用されているとすれば、人間関係という桎梏を示すことになる。《human error #1》の台形がニアミス(=異常接近)に見えてくる。さらに、アルミホイルで作られた輪に直交するように7つの線が象られているオブジェ《環世界 #1》は、人々が手を取り合っているように見える。"umwelt"という語の持つ「周囲の人々」の意とも相俟って、ヤーコプ・フォン・ユクスキュル提唱の「環世界」よりも、アンリ・マティスの《ダンスⅠ》を想起させる。