可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 泉太郎個展『コンパクトストラクチャーの夜明け』

展覧会『泉太郎「コンパクトストラクチャーの夜明け」』を鑑賞しての備忘録
Take Ninagawaにて、2020年2月29日から4月25日。

泉太郎の映像作品「コンパクトストラクチャー」シリーズを中心とした展示。

「コンパクトストラクチャー」は、映像を流したテレビ画面の前での動作をビデオカメラで撮影し、撮影した映像をテレビに映し、またその前でアクションして撮影し、それをまたテレビに映すという、映像の入れ籠を特徴とする映像作品。作家が展覧会のために滞在した都市のホテルで一人で撮影し、その映像をそのまま提示することで、「映像を平坦に整えて支配してしまうような」事後的な編集を排除しているという。
例えば、《コンパクトストラクチャー(逆さピラミッド)》では、いくつかのビルを臨む取り立てて特徴のない窓外の夜景に、作者の影、浮遊する光、団扇によって動く付箋、サッシなどが映っている。近くづいたり遠のいたりする光は浮遊する魂のようでもあるし、ビルで明滅する赤い航空障害灯など街の灯りとの関係では発射されたミサイルのようでもある。いずれも、黒子のような作者の影が団扇を煽ぎ付箋を動かす様子と重なることで、懐中電灯か何かによる「効果」であることが露悪的に示される。窓のサッシが移動し、外界を隔てていたガラスが外される(あるいは外界に開かれていた状況が閉ざされる)。だが紙芝居における場面転換のような事態の進展はない。ディスプレイには映像の付箋の位置に本物の付箋が貼られることで、映像の虚構性が強調される。
普段接している情報の多くはメディアを介したもの。新聞記事を紹介するテレビ番組を見ていたり、誰かによるリツイートを読んでいたりと、元の文脈から外れた可能性のあるメディアの漂着物を受け取っている。「コンパクトストラクチャー」は、黒子=作者の存在をそのまま映しこむことによって、情報の改変を、あるいは、日常的な情報の有り様を明るみに出しているとも言える。
また、ホテルの部屋で作者が一人制作した作品は、新型コロナウィルス感染症への対応として居宅(居室)に引き籠もり情報に触れている状況のアナロジーにもなっている。cell=部屋=ケータイの中では情報は反響し増幅していく。