可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『桜を見る会』

展覧会『桜を見る会』を鑑賞しての備忘録
eitoeikoにて、2020年4月4日~25日。※4月16日より休廊(休廊後再開予定)。

内閣総理大臣主催の「桜を見る会」が中止されたことを受けて開催される、癸生川栄の企画による同名を冠した展覧会。石垣克子、岡本光博、硬軟、島本了多、フランシス真悟、李晶玉、柳井信乃の7名の様々なバックグラウンドを持つ作家が、桜をモチーフとした作品を出品。

フランシス真悟の《Mirroring(magenta-gold)》は、正方形とそれを縁取る枠から成る絵画。配色は2種類の生成りの組み合わせで、絵肌に若干特徴があるようだけれども、白い壁と馴染む、一見すると地味な作品。だが、この作品を下から見上げると、枠の部分に真珠の貝殻のような光沢のある桜色が現れる。枯れ木に花を咲かせるがごとき鮮やかな手つきだ。鑑賞者に対し、対象に対する姿勢の変化ないし複数の視線の保持を促す作品とも言えよう。

岡本光博の《日本の春》は、ダミアン・ハーストの(おそらく)《Renewal Blossom》のパロディで、青空を背景に咲き誇る桜樹を左右2つの画面に描いたもの。ピンク・赤・白の点で表される桜花はハーストの作品よりもかなり稚拙になり、左右の隅には小学館ロゴマークが付されている。入学=更新(renewal)が桜の季節(4月)に当たる日本の特性を、雑誌『小学生一年生』を刊行している小学館で象徴させているため、子どもの作品らしさを表現しているのだろう。個人(ダミアン・ハースト)の作品と一企業(小学館)のロゴマークとを組み合わせて作者が自己の作品として提示する。のみならず、そのタイトルに「日本の春」を掲げている。そこに、私有に適さないものを私有することへの問題意識が先鋭的に表されている。

硬軟の《裁かれる心臓》は、時代劇『遠山の金さん』のクライマックスの舞台であるお白州のジオラマ(の写真)。江戸町奉行遠山金四郎景元が片肌を脱いで「桜」の彫り物を見せる相手は、なぜか切り出された(=裁かれた)巨大な心臓である。名奉行・遠山金四郎の「至誠」に心が動かされない者は未だかつていなかったはずだ。「至誠にして動かざる者は、未だ之れ有らざるなり」なのだ。だが、心臓には「自動性」がある。洞房結節からの電気信号によって独自のペースで動くのであって、誠によって動くのではない。そこにこの裁きの困難がある。