可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『お名前はアドルフ?』

映画『お名前はアドルフ?』を鑑賞しての備忘録
2018年製作のドイツ映画。91分。
監督は、ゼーンケ・ボルトマン(Sönke Wortmann)。
原作は、アレクサンドル・ド・ラ・パトリエール(Alexandre De La Patellière)とマチュー・デラポルト(Matthieu Delaporte)の戯曲『Le Prénom』。
脚本は、クラオディオス・プレーギングClaudius Pläging。
撮影は、ヨー・ハイム(Jo Heim)。
編集は、マルティン・ボルフ(Martin Wolf)。
原題は、"Der Vorname"。

 

ピザの配達員(Serkan Kaya)がスクーターでボンの街を走る。ゲーテの言葉の引用から始まって、歴史上の人物の名が付けられた数々の通りの名がナレーションで紹介されていく。
配達員がある家に到着し、呼び鈴を鳴らす。出てきた男は、ピザは注文していないと言いながら、トリュフ(Tartufo)でも入っているのかと、ツナ(tonno)のピザの値段にケチを付け始める。その値段ならワインがついていてもおかしくない云々。長いやり取りが続くのが気になった奥方が戸口に現れ、配達員に配達先は隣の家だと告げる。
男の名はシュテファン・ベルガー(Christoph Maria Herbst)。ハインリヒ・ベルの研究で知られるボン大学の教授。ロシアでトーマス・マンの講義を行うなど、世界各地で講演も行っている。鉄板のジョークを各国語で使い回している模様。妻の名はエリザベト・ベルガー=ベッチャー(Caroline Peters)。シュテファンとは幼なじみ。国語教師で、貧困家庭の生徒にも修学旅行に参加できる仕組みを導入するなど、多様性の尊重に取り組んでいる。
シュテファンがリヴィングで鍵を探していると、電話が鳴る。夫パウルの死後、山間部に移り住み、難民のための活動に従事している義理の母ドロテア・ベッチャー(Iris Berben)からだった。エリザベトを話し相手にしようと毎日のように電話をかけてきていた。シュテファンから電話を回されたエリザベトは、顔を出せだの秘書が無能だのといった弟トーマスへの言伝を頼まれるが、ディナーの準備に忙しいとおざなりの対応をする。
そこへボンの交響楽団クラリネット奏者レネ・ケーニヒ(Justus von Dohnányi)がロゼの甘口のワインを手土産に姿を現す。9歳のときにパウルとドロテアの夫婦に引き取られ、それ以来、エリザベトとは「姉」妹のように仲が良い。エリザベトを見るやいなやメッシュを褒めて美容室の話題に。レネにはミュンヘンの楽団からオファーがあり、彼は移籍に乗り気のようだ。
シュテファンの幼なじみであり義弟のトーマス・ベッチャー(Florian David Fitz)が高級ワイン2本を携えやって来る。シュテファンは歴史のクイズを出して小馬鹿にするが、トーマスは相手にしない。トーマスは大学に進学しなかったものの、イヌイットにアイスクリームを売れそうなほど弁が立ち、不動産業で成功を収めた。シュテファンの3倍は稼ぎがあるらしい。妊娠した妻アンナ(Janina Uhse)について良い報せと悪い報せがあると切り出し、前者は男の子であること、後者は亡くなったことだと性質の悪い冗談で3人をからかう。エコー写真を見せながら、アンナがストレスからタバコを始めたことをシュテファンが告げると、生まれてくる子の背が低くなったらどうするのかという話に。そして、話題は子どもの名前へ。エリザベトは自分が当ててみせると息巻くが、料理の準備でキッチンへ。シュテファンが最近は伝統的な名前が流行っていると言うと、トーマスは自分は流行に乗るつもりはないと否定し、歴史上重要な人物の名だとヒントを出す。シュテファンとレネが次々と名を挙げていくが一向に正解する気配がない。遂にトーマスは"A"で始まる名だと告げるのだった。

 

舞台作品を原作とする会話劇。前半の山場は子どもの名前をめぐる議論。ジェノサイドや連続殺人鬼などの名からつくられる「つけてはいけない名前」のリストや、「アディダス」のエピソードをはじめ、トーマスの説得力のある主張にうならされる。後半は遅れて到着したアンナも交え、各自が抱える秘密が次第に明らかにされていくに連れ、お互いが腹の内を明かすことになる。そのことで口論はますますヒートアップしていく。
ドナルドはあり得ないというのは世界で共通の認識らしい。