映画『デッド・ドント・ダイ』を鑑賞しての備忘録。
2019年製作のスウェーデン・アメリカ合作映画。104分。
監督・脚本は、ジム・ジャームッシュ(Jim Jarmusch)。
撮影は、フレデリック・エルムス(Frederick Elmes)。
編集は、アフォンソ・ゴンサウベス(Affonso Gonçalves)。
原題は、"The Dead Don't Die"。
アメリカの田舎町センタービル。総勢3名の警察署の署長クリフ・ロバートソン(Bill Murray)は、署員のロニー・ピーターソン(Adam Driver)とともに墓地の奥に広がる森へ車で向かう。農場主のフランク・ミラー(Steve Buscemi)から、森で暮らす世捨て人ボブ(Tom Waits)に鶏が盗まれたとの通報があったからだ。森に入って間もなく焚火の跡が見つかり、近くにはボブが潜んでいた。威嚇射撃をしてきたボブに応戦しようとするロニーを制したクリフは、ごくわずかに言葉を投げかけただけで引き揚げる。クリフはフランクもボブもともに知悉しており、ボブの犯行はないと確信していた。署へと車を走らせるが、夜の8時になってもなぜか空は明るいまま。署に待機しているミンディ・モリソン(Chloë Sevigny)との無線は途中で途絶し、時計やケータイはおかしくなっていた。ラジオでは、異常事態を伝えるニュースや、"The Dead Don't Die"というカントリー・ソングが流れていた。
町の唯一のダイナーでは、フランクが店員ファーン(Eszter Balint)や金物店のハンク・トンプソン(Danny Glover)を相手におしゃべりをしていた。少年院では女子の娯楽室に潜り込んだジェロニモ(Jahi Di'Allo Winston)が、極地の大規模な掘削事業が地軸をずらしたことが異常事態を生じさせている可能性を報じるテレビ番組を視聴していたオリビア(Taliyah Whitaker)とステラ(Maya Delmont)に対し、解説を加えていた。ガソリン・スタンドでは、配達員のディーン(RZA)が異常事態を速報するタブロイドとともに、ゾンビ映画マニアの店主ボビー(Caleb Landry Jones)のために70年代のカルチャー誌を持ちこんでいた。ムーンライト・モーテルのオーナーであるダニー・パーキンス(Larry Fessenden)は、ポージー・フアレス(Rosie Perez)がペットの異常行動を紹介するテレビ番組を見て、姿を消した飼い猫について気を揉んでいた。
署に戻ったロニーは、安置されているマロリー・オブライエン(Carol Kane)の遺体を気味悪がり、明日の晩が宿直のため、遺体の引き取りが明日の日中に行われることを願っている。宿直のクリフはマロリーの思い出とともに一夜を過ごすと言って、二人を帰らせる。ロニーはミンディを送ると申し出るが、車で来ているうえ、そもそもロニーの車（Smart社のfortwo)に乗れるのかと訝しむ。
ボブはキノコの異常な発生や、これまでにないカラスの大群やフランクの家畜が森に集まり出すのを一人観察していた。家に戻ったフランクは呼び寄せた飼い犬が走り去るのを見て、家畜が皆姿を消しているのに気が付く。ボビーの店には都会（クリーヴランド？）からゾーイ(Selena Gomez)が、ジャック(Austin Butler)とザック(Luka Sabbat)を乗せた車で給油に訪れていた。ゾーイは店内装飾やファッションからボビーのマニアぶりに関心を示す。ダイナーでは、ファーンとハンクとの会話に清掃員のリリー(Rosal Colon)が加わっていた。ハンクが店を出た後、ダイナーには招かれざる客が訪れるのだった。
Sturgill Simpsonによるテーマ・ソング"The Dead Don't Die"が繰り返し流され、ほのぼのとしたゾンビ映画の性格を形作っている。
Tilda Swintonが「エヴァーアフター葬儀社」の承継人ゼルダ・ウィンストンとして登場する。謎の多い不思議な設定の人物だが、鑑賞者に対して有無を言わさぬ説得力を持つ。この世の者ならぬ（どこかの星の住人の？）存在感を醸し出すことにこれほど長けた役者も珍しい。
WiFiを求めて徘徊するゾンビたちはスマホ歩きをする人々の揶揄だろうし、ゾンビ映画が次から次へと現れる理由はその点に見出される。また、ゾンビたちは「死んでいるのだから何をしてもいい」という短絡的な発想の恐ろしさをポップに批評しているようだ。ミンディ・モリソン(Chloë Sevigny)の「阿波踊り」的展開も一種の短絡的思考と言えよう。
ゾンビたちは生前に執着していたものへと吸い寄せられるという設定になっていた。警察署や少年院に集うゾンビたちは何を求めているのだろうか。
ボブが『白鯨』を拾うことの意味は。
