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芸術鑑賞の備忘録

映画『15年後のラブソング』

映画『15年後のラブソング』を鑑賞しての備忘録
2018年製作のアメリカ・イギリス合作映画。97分。
監督は、ジェシー・ペレッツ(Jesse Peretz)。
原作は、ニック・ホーンビィ(Nick Hornby)の小説"Juliet, Naked"。
脚本は、エフジェニア・ペレッツ(Evgenia Peretz)、ジム・テイラー(Jim Taylor)、タマラ・ジェンキンス(Tamara Jenkins)。
撮影は、レミ・アデファラシン(Remi Adefarasin)。
編集は、サビーヌ・ホフマン(Sabine Hoffman)とロバート・ナッソー(Robert Nassau)。
音楽は、ネイサン・ラーソン(Nathan Larson)。
原題は、"Juliet, Naked"。

 

"CAN YOU HEAR ME?"と題されたタッカー・クロウ(Ethan Hawke)のファンによるウェブサイト。管理人のダンカン・トンプソン(Chris O'Dowd)が動画で訪問者へ挨拶している。タッカー・クロウはオルタナティヴ・ロックのミュージシャンで、"Juliet"という優れたアルバムを発表したが、正当な評価を得ていない。1993年、コンサートの最中に姿を消して以来、行方知れずのままだ。彼に関する謎についてはこちらをクリックして欲しい、云々。
イングランドの海辺の町サンドクリフ。アニー・プラット(Rose Byrne)が職場であるミュージアムは、父が郷土の歴史を残すために創設したもの。ロンドンで美術史を学んでいたアニーは、父が倒れたのを機に研究を止めて「一時的に」ミュージアムで働くようになった。最近打ち上げられたサメの目玉が一番人目を引く程度の地味な所蔵品ばかり。それでも人々の何気ない姿をとらえた写真にアニーは魅力を感じており、夏の特別展は「1968年の夏」でいこうと決めた。奔放なレズビアンの妹ロス(Lily Brazier)の仕事も確保できる。母に次いで父を亡くし、ロスの母親代わりを務めたアニーは、子どもを持つ気分にはなれなかった。だが40歳という年齢が近付くにつれ、その気持ちは変わっていた。だが同棲相手のダンカンは今の生活に満足していると子どもをつくる気はなかった。大学では映画論を講義しながら、タッカー・クロウ研究に人生を捧げ、ネットで同好の士を相手に熱弁を振るうのが生き甲斐だった。ロスがナンパして連れてきたカーリー(Lily Newmark)から子どもについて尋ねられた際も、血なまぐさい世界に子どもを迎えようなどとは思わないと、アニーも考えを共有しているつもりで断言していた。ある日、自宅でダンカン宛ての郵便物の中にタッカー・クロウのアルバム"Juliet"所収の曲"Juliet, Naked"のデモが入ったCDを確認する。何気なくラップトップで聴いてみたアニーだったが、帰宅したダンカンは貴重な音源をアニーが自分より先に聴いたことに激怒。CDを取り上げてCDプレイヤーで一人で聴くことにする。タッカーは早速ウェブサイトに音源とその寸評をアップロードし、翌朝には反応が多く寄せられたことに機嫌を良くしていた。アニーは"Lyric Master"名義でその音源を酷評する意見をサイトに寄せる。すると、タッカー・クロウ本人を名乗る人物から、君の評価が正しいとのメールが送られてくるのだった。

 

40を前に心が揺れ動くごく普通の女性アニー・プラットをRose Byrneが共感できるキャラクターに造型。いろいろと問題はあってもなぜか好かれてしまう元プロ・ミュージシャンのタッカー・クロウをEthan Hawkeが好演。「マニア」として年を重ね、子供じみた思考の大人であるダンカン・トンプソンのChris O'Dowdは説得力がある。
脇役では、ロスがナンパしたカーリー役のLily Newmark、少女のようにも見える美形の息子ジャクソン役のAzhy Robertson、強引な市長を演じたPhil Davisが印象深い。
展覧会の地味な展示品が新しい一歩を踏み出すきっかけを作り出す展開が良い。
Cédric Klapisch監督の『ニューヨークの巴里夫(Casse-tête chinois)』(2013)やNoah Baumbach監督の『ヤング・アダルト・ニューヨーク(While We're Young)』(2014)などを鑑賞する向きに是非ご覧いただきたい。