映画『罪と女王』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のデンマーク・スウェーデン合作映画。127分。
監督は、メイ・エル・トーキー(May el-Toukhy)。
脚本は、メイ・エル・トーキー(May el-Toukhy)とマレン・ルイーズ・ケーヌ(Maren Louise Käehne)。
撮影は、ヤスパー・スパンニング(Jasper Spanning)。
編集は、ラスムス・ステンスゴード・マドセン(Rasmus Stensgaard Madsen)。
原題は、"Dronningen"。
エンネ(Trine Dyrholm)は、イリク(Preben Kristensen)と共同で事務所を構える弁護士で、少年事件を専門にしている。レイプを抑止するためにある女性に被害を告発させたが、その女性は自分の証言が信用されないのではないかと不安に思っている。法廷で証言するのを止めたいと言ってきたが、告発した上で証言しないのは相手の無罪を証明するようなものだと翻意を促す。結局、裁判では被告の無罪判決が下され、被害女性は涙をのむことに。直後、裁判所の地下駐車場で笑顔の被告を目撃したエンネは、つい食ってかかってしまう。弁護士会に懲戒請求が行われ、イリクからは感情を抑えるよう窘められるが、エンネは私の性格を承知の上でパートナーになったはずだと聞く耳を持たない。
エンネは、夫で医師のピーター(Magnus Krepper)との間に、双子の娘フリーダ(Liv Esmår Dannemann)とフェニー(Silja Esmår Dannemann)を儲けた。ピーターには、スウェーデンに前妻レベッカと、彼女との間にできたグスタフ(Gustav Lindh)がいた。グスタフの非行に手を焼いたレベッカの元から、ピーターはグスタフを迎え入れることにする。娘たちにあまり構わないピーターが息子を受け入れることに懸念がないわけではなかったエンネだが、夫の意志を尊重することにする。手作りのキーホルダーをプレゼントするなどして暖かく迎え入れようとするフリーダとフェニーに対し、グスタフはつれない態度をとる。父親のピーターに対しても、未成年にも拘わらず一人暮らしをすると、反抗的な態度をとる。ある日、エンネが帰宅すると、室内が荒らされ、宝石やiPadなどが盗まれていた。ピーターに報告するとともに警察に通報する。そこへ帰宅したグスタフは無関心であった。その後、グスタフのパンツのポケットから、玄関先で拾ってバッグに入れておいた、娘たちからグスタフへの贈り物のキーホルダーを見つける。盗難事件の際にバッグもなくなっていたのだ。エンネはキーホルダーをグスタフに渡すとともに、非行歴のある少年が罪を犯すと、少年院に収容される期間は長くなると告げる。さらに、もし家族に溶け込むならば、盗難の件は二人の間の秘密にしておくと付け加えるのだった。
エンネとピーターとの関係はけっして悪いものではない。寝室をともにし、夜の営みもある。だが、ピーターのエンネに対する態度の微妙な冷たさが(少なくともエンネは冷たいと感じざるをえないであろう態度が)、彼の妻に対する対応の仕方や表情を通じて随所で描かれ、うまく伝わってくる。同じく、エンネが懸念している、ピーターが娘たちをあまり構わない様子もきっちり描かれている。
エンネが少年事件専門の弁護士として、家庭に問題を抱えている子どもたちについて精通し、数多くの子どもたちを救っているという点が、中盤以降に描かれる本作のテーマによく利いている。なお、エンネは苦労して弁護士となったことが説明され、また、少年事件を扱うようになった遠因が、彼女と(おそらく)父親との関係にあったことが仄めかされる。
グスタフがカセットテープレコーダーを使って身近な人にインタヴューを行う。身近な人との関係性を築くことが難しいために、役割を構築している。双子の娘たちの誕生日に木(エンネを象徴するもの)の上に登って彼がとる行動もまたその変種なのだろう。
エンネが自動車の運転を誤り、「道を外れる」ことが、彼女のその後の行動を象徴している。
原題(デンマーク語)は、"Dronningen"。「女王」のことらしい。さらに、スウェーデン語のタイトル"Hjärter dam"は、「ハートの女王(Queen of Hearts)」。グスタフやエンネがフリーダとフェニーにルイス・キャロル(Lewis Carroll)の『不思議の国のアリス(Alice's Adventures in Wonderland)』を読み聞かせるシーンがある。