可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 鈴木星亜個展『Surface 2014 - 2020』

展覧会『鈴木星亜「Surface 2014 - 2020」』を鑑賞しての備忘録
Maki Fine Artsにて、2020年6月6日~28日。

木星亜の絵画展。

展示作品中最大の画面を誇る(縦2m×横4m)《水面 14_01》は、皇居の石垣と松並木、そして緑を映す濠の水面を描いた作品。何よりも目を引くのは、水の表現。琳派の流水や福田平八郎の《漣》など、水の形象化には様々な印象的手法があるが、この作品の水は、木炭か化学繊維の顕微鏡写真のようなハニカム構造をしている。写真で見ると、梱包材のような立体作品と錯覚してしまいそうだ。そして、遠近法に慣れた目には違和感を覚えさせるモティーフの配置。デイヴィッド・ホックニーのジョイナーフォトやムーヴィング・フォーカスを想起させるといったら良いだろうか、複数の視点からの像が混在している(四角い池を各辺描いた《オレンジとOrange 13_04》が一番ホックニーっぽさを感じさせる)。散策という時間を1枚の画面に描きとめようとしているのだ。その意味で《一遍上人絵伝》のような絵巻物の異時同図法の系譜に位置づけられる。だが一遍=ペグマンを俯瞰するように描くのではないし、「ストリート・ヴュー」的でもない。なぜなら作者は歩いた経験を描画により画面の中にたどりなおしているからだ。サイズや二次元という制約の中、空間や時間を落とし込む際に生じる歪みが作品に独特な力を与えている。この作者の「力業」を生み出すのは、取材メモらしい。風景を文字へ、文字を絵画へという二重の翻訳が、見たことのない風景を起ち上げるのに寄与している。
金閣を描いた近作は、雛壇状に植栽や庭石が配され、最上段に金閣が描かれる、アンリ・ルソー的素朴派風景画。観光名所の陳腐さを露悪的に暴く土産物絵画と言ってもいい。その性格は、金閣よりも大きく樹木が描かれている点に先鋭的に表現されている。また、「余白」がたっぷりとられ、そこにわざと寄せられた皺が目を引く。皺を施す技法は、衣類の上に絵を描く経験から着想されたようだ。皺は使い込むことや経年変化の証であり、自らの経験や手触りをとどめようとの意図が感じられる。あるいは、作品があくまでも絵であること、「書割」であることを強調しているようにも見える。デジタル加工により平板になった顔や風景が平滑なディスプレイに溢れる現状に対する異議申し立て、あるいは定番という均質さへの同調圧力への抵抗を読み取ってもよい。