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芸術鑑賞の備忘録

映画『MOTHER マザー』

映画『MOTHER マザー』を鑑賞しての備忘録
2020年製作の日本映画。126分。
監督は、大森立嗣。
脚本は、大森立嗣と港岳彦。
撮影は、辻智彦。
編集は、早野亮。

 

東京郊外のベッドタウン。向かい側の台地上には団地が聳え立ち、家並みが谷を埋めている。急な坂を一人登ってくる周平(郡司翔)。そこへ周平の母親・秋子(長澤まさみ)が自転車で通りかかる。下校時間より前に帰ってきてしまった周平に、私も仕事をふけたと告げる秋子は、息子の膝に怪我を見つけて傷を舐めてやる。自転車で坂道を下る秋子が一緒に来るように周平を誘い、周平は自転車の後を駆けていく。プールにやって来た二人。秋子はプールに飛び込む。監視員から飛び込まないよう注意を受けるが、周平にも飛び込むようけしかける。躊躇した末に周平もプールに飛び込む。秋子は息子を連れて新座市の実家を訪れる。ドアホンを鳴らすが、誰も出ようとしない。やっと通してもらえた秋子は、母・雅子(木野花)に無心する。妹の楓(土村芳)がこれまでに貸した20万円も1円も返してもらっていないと口を出す。秋子は楓ばかりが可愛がられてきたとか、楓は大学に行く費用を出してもらったとか、あれこれ難癖を付けるが、聞き入れてもらえず、コップを投げつける始末。雅子ももう金を出さないことに腹をくくった。金を工面できなかった秋子がゲームセンターで憂さを晴らしていると、リズムゲームで一人軽快に踊る男(阿部サダヲ)に目がとまり、声をかける。馬が合った二人は酒を買い込んで秋子の家で酒盛りをする。遼を名乗る男はホストをしていたが金を使い果たし、地元の名古屋に帰るところだという。すぐ出立するという遼を秋子はもう電車が無いと引き留め、買い置きのカップ麺を食べようと周平に湯を沸かさせようとするが、周平はガスが止まっているから無理だと言う。秋子はコンビニに行ってカップ麺を作って来いと周平を追い出し、遼との行為に耽る。秋子は、児童手当の件で知り合った市職員・宇治田守(皆川猿時)に気を持たせて以前から利用していたが、遼とともに名古屋に行くに当たり、周平を宇治田に無理矢理預けていく。困った宇治田は食料を買い込み、周平を家まで送って立ち去る。テレビゲームをして時間を潰し、カップ麺をそのまま囓って空腹を満たしていた周平だが、ある日遂に電気も止まってしまう。それでも帰宅の費用がないから送金しろと母親から連絡を受けた周平はATMに向かい指示に従う。遼とともにようやく帰ってきた秋子は、喫茶店に宇治田を呼び出す。秋子と遼は、宇治田が周平にいたずらした件をでっち上げ強請る計画だった。

 

社会から隔絶した幼い周平が母親の秋子しか頼れず、また母が本当に信頼できるのは自分だけだとの思いを強めていく過程が描かれていく。母の妊娠とそれに対する祖母の反応が周平の後年の行動に踏み切る動機を与えている。
生まれたときからずっと駄目で、母親を好きでいることも駄目なのかという周平の思いが切実。
周平の幼少期を演じた郡司翔も、青年期を演じた奥平大兼もともに素晴らしい。奥平の綺麗な顔は坊主頭のとき余計に目立った。
秋子役の長澤まさみの、泥でできた面のような無表情や、そこからわずかに笑みを帯びたような表情は良かった。だが、その美貌が邪魔をしていると言わざるを得ない(神々しい太腿も)。「美人過ぎる」という表現はこういうときに使うのが相応しいだろう。