映画『透明人間』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のアメリカ映画。122分。
監督・原案・脚本は、リー・ワネル(Leigh Whannell)。
撮影は、ステファン・ダスキオ(Stefan Duscio)。
編集は、アンディ・キャニー(Andy Canny)。
原題は、"The Invisible Man"。
光学技術者で実業家のエイドリアン・グリフィン(Oliver Jackson-Cohen)の海を臨む豪邸。セシリア・カシュ(Elisabeth Moss)がエイドリアンの腕を解いて、そっとベッドを抜け出す。時計は午前3時41分から42分に変わるところ。マットレスの下に隠したジアゼパムの瓶を取り出すとともに、ベッドサイドテーブルのエイドリアンのグラスを確認する。エイドリアンに声をかけ、彼が起きないことを確かめると、まずは寝室前の廊下にある監視カメラの向きを変える。荷物をまとめると、ラボへ行き、監視カメラをオフにする。暗い中を移動していて飼い犬のゼウスのフードボウルを蹴飛ばして大きな音をたててしまう。慌てるセシリアはガレージまで出たところで、後を追ってきたゼウスの首輪を外してやろうとする。姿勢を崩して車にぶつかり、アラームを作動させてしまう。丘を下りて林を抜け、自動車道に出ることができたセシリアは、迎えを頼んだ姉エミリー(Harriet Dyer)の車を待つ。エミリーの車が到着し乗り込んだところへ、エイドリアンが追いつき、車の窓を叩き始める。ガラスが割られたところで急発進し、何とか逃げ切ることができた。
セシリアがエイドリアンの元を逃れてから2週間が経過した。エイドリアンに居場所が知られないよう、友人で警察官のジェームズ・ラニアー(Aldis Hodge)の元に身を寄せていた。エイドリアンに見つかることが恐ろしくて外出もままならず、郵便受けまで歩くのがせいぜい。エミリーが訪ねてきたときも、居場所を知られる危険を高めると、不満を隠さないセシリア。だが、エミリーは恐れる必要は無くなったと言う。エイドリアンが自殺したと言うのだ。実際、自殺を断定する記事もネットに流れていた。だが、全てが自らの思い通りに運ばないと気が済まないエイドリアンが簡単に命を絶つはずなどないと、セシリアは半信半疑だった。しかも、誰かが近くにいて見られている気配を濃厚に感じていた。その後、ジェームズの家に何故かセシリア宛の手紙が届く。エイドリアンの兄トム(Michael Dorman)からのものだった。トムは弁護士で、エイドリアンの遺産の管財人を務めていた。エイドリアンは500万ドルと非課税の不動産をセシリアに遺贈したという。不安を感じるセシリアに、トムは、自分もエイドリアンの支配に悩まされていたと告げ、受贈のサインを促すのだった。
セシリアは、家の壁を塗り替えているジェームズに新しい脚立をプレゼントするとともに、娘のシドニー(Storm Reid)が希望する美大進学の夢を叶えるために毎月仕送りをすることを約束する。大喜びのシドニーと、戸惑うジェームズに、セシリアは祝い酒だとシャンパンを取り出す。翌朝、セシリアは朝食を作っていると、キッチンに現れたジェームズは昨晩は飲み過ぎたと朝食を撮らずに仕事に向かう。ジェームズからシドニーを起こすよう頼まれたセシリアが、ベーコンエッグのフライパンの火を小さくしてキッチンを離れたところ、何故か火力が大きくなり、出火してしまう。シドニーが落ち着いて消化器を使って鎮火したために事なきを得る。だが、セシリアの感じていた人の気配は、周囲で起こる不思議な現象として徐々に現実化していくのだった。
本編に入る前に『透明人間』という邦題が表示される一方、本編のオープニング・クレジットに"The Invisible Man"の表記はない。だが、『透明人間』ないし"The Invisible Man"という映画だと分かって見ているのだから、いずれにせよ、鑑賞者は、どこかに透明人間が潜んでいるのではないかという恐怖をあおられて作品を見ることになる。この先入観の効果は絶大で、主人公の姿からカメラを水平移動させて部屋だけを見せるカットに「いるんじゃないか」と恐怖心をあおられる(音楽の効果もあるだろうが)。
全編にわたって鑑賞者に緊張感を途切れさせることの無い展開は素晴らしい。
ジェームズが「シー」との愛称でセシリアに呼びかけるのが気になった。"see"との連想らしい。なお、この愛称と対になるかのように、「セシリア」という名の語源には「盲目」含意があるという。
セシリアは強い。そこにエイドリアンが執着する根拠がありそうだ。セシリアの「状況」を考えれば、続篇は当然構想されているだろう。
冒頭の監視カメラの向きを変えるシーンから脚立に登るという動作が描かれ、ジェームズが脚立を使って作業し、シドニーが脚立に登って手紙を発見し、脚立に登るシーンが繰り返されていく。
透明人間を可能にするテクノロジー。そのテクノロジーを前提にしたとき、可視・不可視の境はどこにあるか。