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芸術鑑賞の備忘録

映画『WAVES ウェイブス』

映画『WAVES ウェイブス』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のアメリカ映画。135分。
監督・脚本は、トレイ・エドワード・シュルツ(Trey Edward Shults)。
撮影は、ドリュー・ダニエルズ(Drew Daniels)。
編集は、アイザック・ハギー(Isaac Hagy)とトレイ・エドワード・シュルツ(Trey Edward Shults)。
原題は、"Waves"。

 

フロリダ。エミリー・ウィリアムズ(Taylor Russell)が、街路樹に覆われた通りを一人自転車で走り抜けていく。
エミリーの兄タイラー(Kelvin Harrison Jr.)は、"goddess"と呼び溺愛するアレクシス・ロペス(Alexa Demie)とともにドライヴ・デートで羽目を外していた。二人は、"CARPE DIEM"(この瞬間を大切に生きろ)をモットーとするハイスクールの同級生。タイラーは、レスリング部「マーヴェリクス」に所属する選手で、コーチのワイズ(Bill Wise)の厳しい指導の下、日々鍛錬に励んでいる。エミリーとタイラーの父親ロナルド(Sterling K. Brown)は建設業を営む厳格な人物。最初の妻で二人の子の母親を薬物の過剰摂取で早くに失い、今は病院に勤務するキャサリン(Renée Elise Goldsberry)を妻に迎えている。 苦労して身を起こしたロナルドは、とりわけタイラーに成功してもらいたいと、話し方や学校の課題から、起床、ジョギング、トレーニング、レスリングの戦術に至るまで、ありとあらゆる面を監理している。ある日曜日、家族で教会を訪れて説教を聞いている最中、ロナルドはタイラーがうとうとしているのを見咎める。ダイナーで昼食をとりながら、ロナルドはタイラーの夜遊びを疑う。レスリングのシーズン開幕を控え、ロナルドはタイラーにベスト・コンディションで初戦に臨ませたかったのだ。仕事で都合のつかないキャサリンだけでなく、エミリーも勉強で初戦を観戦しないことを知って残念がるが、自分はしっかり観戦して戦況を分析しようと意気込むのだった。タイラーはロナルドに左肩について尋ねられても、失望させまいと問題ないと答えていたが、痛みは耐え難くなってきていた。迎えたレスリングの第一戦。タイラーは見事に勝利を収めるが、ロナルドは戦術が甘いために時間をロスしたと、家に帰ってから自宅に設えたマットでタイラーを特訓する。タイラーは遂に病院で精密な検査を受けると、医師(Holland Hayes)からは、長年の無理が祟って肩の関節は深刻な状況にあり、すぐに手術を受ければ若いから回復する可能性があるが、試合などとんでもないと告げられる。父親からの重圧を感じているタイラーは、家族の誰にも診断結果を告げず、父親の鎮痛剤を密かに摂取してしのぎ、第二戦に臨む。だが、試合で左肩を痛めて敗れ、マットから起き上がることさえできず病院に運ばれた。戦列を離れたタイラーは久々にアレクシスと会うが、彼女はタイラーの求めに応じようとしない。生理が遅れていることに不安を感じていたアレクシスはその気になれないのだった。タイラーは自分の肩の怪我と父親の落胆から逃れようと癒やしを求めていたため、彼女を思いやる余裕は無かった。それでも、何とか彼女に気休めを伝えるのだった。プロムが迫る中、タイラーはアレクシスに中絶手術を受けさせようと病院に連れて行く。しかし、帰りの車中でアレクシスから決断できなかったと告げられたタイラーは逆上し、彼女と罵り合った挙げ句、彼女を車から降ろして、一人で帰る羽目になってしまうのだった。

 

冒頭のドライヴのシーンから、360度回転するカメラワークが印象的。音楽をストーリー・テリングさせるように用いているところから、レコードの回転をイメージさせるためなのだろう。
鮮烈な色使いの画面は、青、そして橙ないし赤とが強調される。例えば、タイラーとアレクシスが海で抱き合うシーンでは、青の中で一際アレクシスのネイルのオレンジが眩しい。だが、この青と赤との組み合わせは、実はドラマの暗転を象徴する、ある光の組み合わせでもある。
音も光も波長(WAVES)。人生もまた寄せては返す波のようなものという意味では、同じ。