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芸術鑑賞の備忘録

映画『パブリック 図書館の奇跡』

映画『パブリック 図書館の奇跡』を鑑賞しての備忘録
2018年製作のアメリカ映画。119分。
監督・脚本は、エミリオ・エステベス(Emilio Estevez)。
撮影は、フアン・ミゲル・アスピロス(Juan Miguel Azpiroz)。
編集は、リチャード・チュウ(Richard Chew)。
原題は、"The Public"。

 

本を愛するとともに老若男女を問わず人と交流することが好きな人にうってつけの職業が図書館員である、という古いフィルムが流される。
オハイオ州シンシナティ。通りの片隅に佇む路上生活者たち。
数日来の寒波により、シンシナティの路上生活者の中には既に凍死者が出ていた。スチュアート・グッドソン(Emilio Estevez)が勤務先のシンシナティ公共図書館に向かうと、建物の周りには既に寒さを逃れようと路上生活者たちが開館を待ち侘びていた。顔なじみに声をかけながら正面玄関に到着すると、警備責任者のエルネスト・ラミレス(Jacob Vargas)がすぐに入館させるよう文句を言う人たちに「開館は9時です」と対応している。館内に入ると、ホールには昨日までは無かった巨大なホッキョクグマの剥製が立ちはだかっている。通りがかった図書館長のアンダーソン(Jeffrey Wright)から、博物館の改修に当たって借り受けたのだと教えられる。そして大事な話があるから正午に会いに来るよう求められる。3階の人文・社会科学部門で5年目となる同僚のマイラ(Jena Malone)は、今日も遅刻。環境を汚染する自動車を避けるため利用しているバスが遅れたためだという。マイラはジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』のハードカバーを手に文学への情熱を語り、以前から求めている文学部門への異動を改めて願い出てきた。路上生活者のジャクソン(Michael K. Williams)、スマッツ(Michael Douglas Hall)、シーザー(Patrick Hume)たちがトイレで身だしなみを整えているところへスチュアートが顔を出し、ジャクソンに金を渡す。寒波のためにシェルターはどこもいっぱいなため、閉館後の彼らの行き場を心配してのことだった。正午、スチュアートが会議室に訪れると、館長だけでなく、2名の評議員、エルネスト、さらにはシンシナティ市長選に出馬を表明しているシンシナティ市検事のジョシュ・デイヴィス(Christian Slater)までが待ち受けていた。スチュアートとエルネストが悪臭を理由に退去させた路上生活者から図書館が訴えられた件の善後策を話し合うためだった。エルネストとスチュアートは、他の利用者やスタッフの苦情を理由に弁解するが、シンシナティ市側代理人であるデイヴィスは、合衆国憲法修正第1条が保障する情報へのアクセス権を不当に奪ったために75万ドルの支払いが求められる羽目になったのだと2人を責める。1日の仕事を終え、車で送るとの申し出をマイラから断られたスチュアートは、アパートの自分の部屋のドアが開いているのに気が付く。部屋ではアンジェラ(Taylor Schilling)が壊れた暖房を叩いて直そうとしていた。アンジェラはアルコール依存症から立ち直ろうとしている最中で、家賃を支払う代わりに家主からアパートの補修を請け負っているという。プレーンのピザを買って来ていたスチュアートは、自家栽培のトマトとバジルをトッピングしてアンジェラに振る舞う。アンジェラから、今時誰が図書館に行くのかとか、一日中座って本を読めるなんて羨ましいなどと言われても、スチュアートは利用者登録をしに来てと鷹揚に対応する。アンジェラは変わり者だけれど気持ちの悪い人物じゃないと言いながら、スチュアートを大いに気に入る。一夜を共にした翌朝、アンジェラが図書館に顔を出すと言うので、スチュアートは閉館後に食事でもと応じる。スチュアートは図書館の前で凍死者が担架に運ばれる場面に遭遇する。遺体を確認すると顔見知りの人物であった。

 

スチュアート・グッドソン(Emilio Estevez)が図書館員として活躍できるようになった背景には、菅谷明子の『未来をつくる図書館 ニューヨークからの報告』が描くような図書館による市民の自立支援があったからだろう。あえて図書館の機能についての描写を行わなかったのは、あくまでもこの映画がまっとうな人々を主題とするからだろう。原題は、「パブリック(public)=公共の(connected with ordinary people in society in general)」ではなく、「ザ・パブリック(The Public)=人々(ordinary people in society in general)」なのだから。
路上生活者の人権の価値を声高に叫んだ市検事のジョシュ・デイヴィス(Christian Slater)が、緊急避難的行動に訴えた路上生活者たちを暴力で排除しようとするのは矛盾だ。検事を戯画として笑うのは簡単だが、果たして当事者として本当に全ての人々を等しく扱う(受け入れる)ことができるのか。実際、東京でも、台風に際して避難所がホームレスを受け入れ拒否したことは記憶に新しい。