可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『第22回写真「1_WALL」展』

展覧会『第22回写真「1_WALL」展』を鑑賞しての備忘録
ガーディアン・ガーデンにて、2020年7月7日~8月6日。

個展開催権をかけた公募展のファイナリスト6名によるグループ展。

 

薛大勇《私はこうして見つかった》
迷彩服を身につけ顔にもペイントを施した作者が、巷に佇むセルフポートレイト6点。塀や石壁、生け垣の前に立ち、街路樹や金網フェンスの影に潜み、花壇のブロックに座り、植栽の中で屈む。何気なく写真を見たら気付かないくらい作者が風景に溶け込んでしまっているためか(迷彩柄恐るべし!)、別途、無地の背景で撮影したカモフラージュのセルフポートレイトを張り出し、その前に観葉植物を置くことで、鑑賞者に作品の構造を示している(兵役検査の通知書も添えられている)。
台湾では18歳になると4ヶ月の軍事訓練が義務づけられているが、戦争の現実味が薄れていくうちに恰も兵役が「成人式」のように捉えられているという。暴力装置によって存立する統治機構とその一端を担う市民とを可視化することが狙いであると作者は記している。街中で迷彩柄に身を包む作者の姿は、市井の人が武器を手にする可能性を示している。のみならず、も、現実を生み出す要因として過去か現在かを問わず戦争があることを思わせ、さらには知らないうちに忍び寄っている戦争の影とも捉えられる。

 

齊藤幸子《Jîn》
川口市には2000人規模のクルド人コミュニティが存在するという。7人のクルド人の若者のポートレイトとともに、彼/彼女らの寄せたメッセージが展示されている。
校門の前に立つ少女、ガードレールにもたれる少女、川の土手に座る女性、公園の草叢に立つ男性など、メインとなるポートレイトは、壁や柵あるいは川といった境界や曖昧な領域を舞台に撮影されている。背景に川と市街道路を配していることで、境界や流れのイメージは強調されている。また、ポートレイトを収めたフレームの四辺のうち一辺が欠けているのは、アイデンティティーをめぐる喪失感のようなものが表現されているのだろう。7名のポートレートには、それぞれ彼らの日常を撮影した写真がコンタクトプリントで添えられ、彼/彼女の生活の一端を垣間見せている。各自の記したメッセージは1つだけ何も書かれていなく、1つだけクルドの言葉で書かれているが、他は全て日本語で書かれている。同じ景色、生活や文化を共有しながら、彼/彼女らの前に立ちはだかる壁、あるいは両岸を隔てる流れを静かに伝える。