可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 佐藤T個展『いつかまた会えると思っていた』

展覧会『佐藤T個展「いつかまた会えると思っていた」』を鑑賞しての備忘録
みうらじろうギャラリーにて、2020年7月18日~8月2日。

様々なシチュエーションの単身の女性を描いた作品のみで構成される、佐藤Tの絵画展。

「いつかまた会えると思っていた」という言葉は、再会への期待が叶わず仕舞いだったことへの嘆きとも、期待通り再会できた喜びとも解されるが、作者の作品から浮かび上がるのは、後者の解釈だ。
《平穏な日々にさよなら Ⅱ》は、穴が開いて綿が飛び出したクッションが散らばる床に女性が片膝を立てて座っているのをライトが照らし出している様子を描いている。女性が握る角材と女性の背後のタイルで覆われた壁には、同じ液体の飛沫がこびりついている。何か凄惨な事件が起きた現場であろうか。だがその液体は血のイメージを喚起しながらも血液であることを避けた赤紫色だ。役者にスポットライトを当てた舞台ではなかろうか。右手で緑色の玩具の拳銃を餅、左手で赤紫色の飛沫がべっとりと付着したカーテンを引き出してみせる《あなたが見る夢 Ⅲ》や、暗闇の中、ロープを手にした女性が照らし出される《ヘッドライト》にも同様に芝居の印象を受ける。《秘密Ⅱ》は、蕗などが蔓延る、人が足を踏み入れることのない建物と塀との隙間に、一人横たわっていた女性が起き上がろうとしている様を描く。腹ばいにでもなっていたのだろうか、胸から腹の辺りは泥で汚れている。雑草の緑と、手をかけた建物の赤い壁面との対比が鮮烈だが、それ以上に見上げる女性のまなざしが鑑賞者を射るようだ。もっとも、その目から禍々しさは感じられない。都会の片隅で一人自然(?)と戯れていた姿を見られてしまった恥ずかしさを睨むことで隠蔽する、一種のカモフラージュではなかろうか。そして、ひとり遊びは露見してしまって、既に秘密は秘密ではなくなってしまったのである。《出口のない部屋》は小さな窓のある狭い空間で膝を抱え蹲る女性を描くが、壁面の水色やエメラルドグリーン、あるいは明るくて人物とはかけ離れた形の影に現実からの浮遊感を感じる。「出口はないが、入口ならある」というメッセージさえ読み取れなくもない。
描かれるのは全て単身の女性であり、髪型などは違えど似た印象を受けることもあって、鑑賞者はひとり芝居を見ている感覚に襲われるだろう。画面という舞台の上で展開される不穏な世界の物語は、繰り返し上演されていくのだから、「いつかまた会える」と思って間違いないのだ。