展覧会『秋吉風人/田中和人「あれか、これか」』
KAYOKOYUKIにて、2020年7月4日~8月2日。
秋吉風人と田中和人の二人による絵画展。両者の作品を交互に並べて紹介している。
秋吉風人の作品は、左右に画風の異なる作品を繋げた絵画。鑑賞者は画面の左右を眺めて、これが一つの作品である理由、すなわち左右の連関を想像しないわけにはいかない。左右で異なるデザインは、着物、漆器、焼き物など工芸の分野では「片身替り」として古くから見られる技法である。着物の場合、当初は生地の不足を補う実用的な理由もあったのだろう。川や橋が此岸や彼岸の境界を象徴するのなら、「片身替り」には両者を併存させることで対岸へのまなざしを日常に持ち込む、日本流の"memento mori"(死を忘るなかれ)が息づいているとも言えよう。だが、ベルリンの壁から米墨国境間のフェンスへと、グローバリゼーションという境界の溶解現象が招くアイデンティティー・クライシスが壁を再建する中、「あれも大事(That Matters)」と想像する力を鑑賞者に喚起するのが、本作品の狙いではないか。あれがなければ、これもないのだ。
田中和人の作品は、様々な色で描き込んだ縦長の画面の中央に、画面と相似形を成す単色か二色の色面の光沢のある写真を貼り込んでいる。作品の保護のためでもあるだろうが、アクリルのパネルで全体を覆っているのは、描画と写真とをまとめ上げる装置として機能させるためだろう。様々な色彩が乱舞しながら艶のない描き込んだ部分と、鏡面のような写真とはかなりコントラストが強いからだ。眺めているうち、描画と写真との強いコントラストは、風に漣が立った水面が落ち着きを取り戻すように和らいでいく。すると、ウィリアム・ターナーやクロード・モネの描いた世界のように、絵具の色彩が樹木の茂れる葉にも咲き乱れる花にも都市の家並みにも見え、単色やグラデーションによる写真が池や海の水面、あるいは夕空や夜空として立ち現れるだろう。あの作品の描く世界が、この作品にも描かれている。