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芸術鑑賞の備忘録

映画『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』

映画『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のポルトガルアメリカ・マレーシア合作映画。111分。
監督は、リチャード・スタンリー(Richard Stanley)。
原作は、H・P・ラブクラフト(H. P. Lovecraft)の小説「宇宙からの色(The Colour Out of Space)』.
脚本は、リチャード・スタンリー(Richard Stanley)とスカーレット・アマリス(Scarlett Amaris)。
撮影は、スティーブ・アニス(Steve Annis)。
編集は、ブレット・W・バックマン(Brett W. Bachman)。
原題は、"Color Out of Space"。

 

水文学者のウォード・フィリップス(Elliot Knight)は、ダム建設の環境調査のため、アーカム西部にある森を訪れていた。森を貫流する川の岸辺で、辺りに護符や結界らしきものを飾り付け、少女が一人、祈りを捧げている場面に遭遇する。少女の名はラヴィニア・ガードナー(Madeleine Arthur)。秘術を記した『ネクロノミコン』に基づいて、ミカエル、ガブリエル、ラファエル、アウリエルの四大天使の名を呼び、癌に冒された母テレサ(Joely Richardson)の恢復と、自らの自由とを祈っていた。ウォードに気が付いたラヴィニアは慌てて儀式を中断する。ウォードに川のこちら側は私有地だと告げ、儀式が無駄になってしまったとぼやいて、白馬に乗って去る。ラヴィニアが帰宅すると、ポーチに父ネイサン(Nicolas Cage)が座っていて、ヘルメットを付けずに乗馬していることなどラヴィニアに小言を言い、テレサに見つかる前に馬を厩舎に入れるよう言いつけるが、既にテレサはポーチに出てきてラヴィニアを見咎めていた。馬を連れて厩舎に向かったラヴィニアは、「葉っぱ」の味を覚えたベニー(Brendan Meyer)を見つけ、馬の世話を任せる。夕食はネイサンがフランス風の煮込み料理を用意する。テレサの療養のため、ネイサンは一家を引き連れてかつて父親が暮らしていた地所に移り住み、トマトの栽培やアルパカの飼育を行っていた。ラヴィニアは田舎暮らしを受け入れられず、ファーストフードの味を恋しがる。テレサは投資顧問をしており、ネットでの顧客のやり取りが延びたため、遅れて食卓に着いた。まだ母親に甘える年頃の末っ子のジャック(Julian Hilliard)は、皿洗いの当番だと言われて不満を漏らす。ジャックが眠りにつき、ベニーが宇宙についてネットで調べ、ラヴィニアがベッドで『ネクロノミコン』を広げ、ネイサンがテレサを愛撫している最中、強い光が屋敷を包み込む。驚いたジャックは母親のもとへ行こうと寝床を抜け出す。轟音が響き渡り、ネイサンとテレサは慌てて部屋を出ると、廊下にいて動揺しているジャックに気が付く。前庭には強い輝きを放つ何かが墜落していて、周囲には異臭が漂っていた。翌朝、ネイサンの通報を受け、保安官のピアース(Josh C. Waller)がトゥーマ市長(Q'orianka Kilcher)を連れて視察に来た。トゥーマ市長は東海岸の飲料水を供給するための大規模なダム開発を推進していた。近くの森でキャンプしていたウォードも駆け付け、落下物は隕石だろうと判断する。ネイサンはウォードから遠ざけようとラヴィニアにテレサのもとに行くよう言いつける。ラヴィニアはテレサからウォードの腕の中に倒れ込まんばかりに気がある様子が見て取れると言われて傷つく。ウォードはベニーの案内で、森で暮らすヒッピーのエズラ(Tommy Chong)のもとを調査のために訪れる。元電気技師だというエズラは小屋の付近に監視カメラを設置していた。ベニーとウォードとを迎え入れたエズラは、「隕石」についても既に把握していて、「ジャワ」だと言って濁った水を差し出す。ウォードは水道管の錆を疑うが、水道ではなく井戸水だというエズラに、水質検査を申し出る。井戸の傍に見慣れない真っ赤な花が咲いたり、通信障害がひどくなったりと、「隕石」の落下から、ガードナー家に異変が続き、それに伴って家族の精神にも徐々にきしみが生じ始めていた。

 

森の情景の描写に重ねられるウォード・フィリップス(Elliot Knight)の語りには、魔女の話題が取り上げられ、続くウォードとラヴィニア・ガードナー(Madeleine Arthur)の邂逅では、ラヴィニアの「儀式」が描かれる。魔女と森との結びつきから、ダム建設という環境(森林)破壊に対する自然(森林)の側からの報復という要素は考えられていよう。また、宇宙からの色(The Colour Out of Space)という表現に不可視の存在の影響力を読み取り、「隕石」の落下をもって放射能漏れの象徴と捉えることも可能だろう。だが、それよりも、母親の病気のような1つの変化をきっかけに、それまでの家族の関係が変容し、破綻するという要素の方が強く前面に出ている。そして、安易な救済が存在しない潔い作品である。
家族の「変容」の描写も含め、見る人を選ぶ作品ではある。
家族の引っ越し、森、小説原作の映画として、2019年にケヴィン・コルシュとデニス・ウィドマイヤーとが監督した『ペット・セメタリー』と比較して見るのも一興だろう。