可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ロックンロール・ストリップ』

映画『ロックンロール・ストリップ』を鑑賞しての備忘録
2020年製作の日本映画。108分。
監督・脚本は、木下半太
原作は、木下半太の小説『ロックンロール・ストリップ』。
撮影は、曽根剛。

 

ある朝、木村勇太(後藤淳平)が自宅のアパートの一室で寝入り込んでいるところへ恋人・栗山千春(徳永えり)が訪れる。千春は勇太と将来について本気で話し合いたい。だが勇太はトイレに逃げ込んだと思うと全裸で現れ、局部を腿の間に挟み女の子になったとふざけて今日も千春の話題を躱してしまう。勇太は、映画監督志望の25歳。バーテンダーのアルバイトをしながら在阪の劇団「チームKGB」の座長を務めている。映画の専門学校に通いもしたが、舞台の演技を否定する講師と衝突し、舞台出身で映画で活躍している監督や俳優はいくらでもいると啖呵を切って辞めてしまった。バーで常連客から夢を聞かれ、映画監督になることと答えると、アルバイトをしているようじゃ駄目だと笑われる。実際、勇太の妹・朋美(三戸なつめ)は、ロックバンド「マチルダ」でボーカルを務めるプロのミュージシャンで、事務所と契約して東京進出も果たしていた。夢とパチンコは一緒で諦めるなら早い方が傷が小さいよと言われた勇太に返す言葉は無かった。サスペンス・コメディで臨んだ本公演が失敗に終わると、打ち上げの席で劇団員の大半が脱退してしまう。残ったのは、赤星(ぎい子)、火野(町田悠宇)、ビーバー藤森(坂口涼太郎)だけだった。再起のため一念発起した勇太は、母親(あだち理絵子)から借金して、バイト先の先輩と「デ・ニーロ」というバーをオープンさせる。初日から、店を潰すことで恐れられているヤクザの宮田(やべきょうすけ)の妨害を受けるが、宮田の女(黒岩よし)の取りなしで当面の危機を回避する。だが後日千春が訪れたバーに客の姿はなく、千春は不安になる。勇太は週末には客が入ると強がって見せたが、その見込みは無かった。相変わらず閑古鳥の鳴くバーだが、ある夜の閉店間際、赤い服に身を包んだセクシーな女性客(智順)が駆け込む。彼女は勇太に会うのは初めてではないと、壁に貼られた劇団のポスターを指さす。公演は面白かった。劇団には可能性がある。ついてはストリップ劇場「東洋ミュージック」で前座をしてくれないかと勇太に持ちかける。冬音と名乗る女性は、「旭川ローズ」の名で舞台に立つストリッパーだった。痛飲して冬音と一晩をともにした勇太は申し出を断ることができない。勇太は劇団員に招集をかけ、「東洋ミュージック」へと向かう。時代に取り残された古惚けた建物に足を踏み入れると、そこはトイレだか廊下だか見分けのつかない場所で、4人は思わずたじろいでしまうのだった。

 

映画監督志望の青年をめぐるドタバタ劇。夢の実現にしりごみしている人の背中をどついたろうという応援歌的作品。大団円を迎える直前、クライマックスの盛り上がりが良い。
後藤淳平が、才能と映画愛を自負しつつ勝負に出られない劇団主宰・木村勇太を好演。ヤクザを演じるシーンに、映画『地獄でなぜ悪い』(2013)の堤真一の姿を彷彿とさせるものがあった。
栗山千春(徳永えり)が勇太に向かってぶつける科白のように、千春が勇太の世界に存在しなくなってしまう危険性があるくらい、勇太の住む世界は慌ただしく刺激的に展開していく。それでも、千春が勇太の手綱をしっかりと握っている展開が待っていて、徳永えりがその強さを持つキャラクターを造型。
智順が女性をも虜にするストリッパー「旭川ローズ」を魅力的に演じて説得力がある。やる気のないストリッパーを演じる乃緑らがローズの輝きを増す良いアシストをしている。
ビーバー藤森(坂口涼太郎)の怪演と身体能力の高さには目を見張るものがある。だが、それがゆえにちょっと盛り込み過ぎたきらいがある(もったいなくてカットしづらかったんだろう)。