可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 オラファー・エリアソン個展『ときに川は橋となる』

展覧会『オラファー・エリアソン「ときに川は橋となる」』を鑑賞しての備忘録
東京都現代美術館〔企画展示室地下2階〕にて、2020年6月9日~9月27日。

冒頭は絵画の展示。氷河の氷が溶ける作用を利用して描かれた水彩画の三幅対(《あなたの移ろう氷河の形態学(過去)》・《メタンの問題》・《あなたの移ろう氷河の形態学(未来)》)や、作品の輸送(飛行機ではなく、鉄道と船とで輸送)の動きや揺れをモティーフにしたという、石川九楊の書を連想させるドローイングを紹介。続く展示室は、《太陽の中心への探査》が設置された、穴を覗くことなく鑑賞する万華鏡のような空間。ガラス製の多面体が床から吊され、周囲をミラーボールのように照らす。その隣では、海岸に打ち上げられた氷の形を3Dスキャンで再現した立体作品とその解説映像から成る「氷の研究室」と、青い光を見続けた後に見える残像を見せる《あなたのオレンジ色の残像が現れる》を展示する。続いて、床に置かれた数台のライトによって、その前を通過する鑑賞者の複数の色の影が壁面に映じる《あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること》の展示室。そこを抜けると、灰色の羊毛、野菜屑の顔料、ガラスの廃棄物などからつくられた作品など資源の有効利用や造型の試行錯誤の過程を見せる「サステナビリティの実験室」がある。テーブルに載せられた様々な実験の成果には目を見張るものが多く、環境問題に強い関心をもって制作しているオラファー・エリアソンの活動の白眉である。だが、なぜか小さい文字を詰め込んだ小さなキャプションで地味な紹介しかされていない。他の展示作品が空間を広々と使って展示されているだけに、もっと大々的に展示してもよかったのではないか。次の空間は、太陽光発電によるライト「リトルサン」を手にしたダンサーのパフォーマンス映像《あなたの光の動き》と、鑑賞者が同様のパフォーマンスを体験できるコーナー(《サンライト・グラフィティ》という作品)。その先には、ガラスのリングを用いて分光した光を壁面に投影した《人間を超えたレゾネーター》の展示室、さらに、回転する円形のガラス板と光とがつくりだす映像を見せる《おそれてる?》の展示室がある。通路を抜けて吹き抜けの巨大な展示空間へ。黒い遮光カーテンの中に入ると、中央の床に可動装置が組み込まれた水槽が置かれ、スポットライトの光が水槽の水面の揺らぎにより変化する様子を頭上のスクリーンに映し出す《ときに川は橋となる》を鑑賞できる。この展示空間の脇には小さな通路があり、その先には、霧状に降らせた水に光を当てることで虹を見せる《ビューティー》が設置されている(この作品は見忘れる人が多いらしく、出口で鑑賞を確認する掲示がある。ショップの先に展示されていたらしい《フィヨルドハウス》の掲示はあればいい)。最後の展示室では、氷河の定点観測写真《溶ける氷河のシリーズ 1999/2019》、溶岩よりも鏡の効果に見とれてしまう《昼と夜の溶岩》、過去に公共空間に設置した作品の記録写真、関連書籍が紹介されている。

 

展示を見て抱いたもやもやした感じをどのように言語かすべきか分からなかった。だが時間をおいて、ようやく相応しい表現が見つかった。それは、Soup Stock Tokyoで、小鳥の餌みたいなカレーを供されたときの、「なんだ、これは!」と岡本太郎になってしまう感覚に近い。小鳥の餌を啄みたい者がSoup Stock Tokyoを訪れるのであり、カレーを食したい者がSoup Stock Tokyoの暖簾をくぐるのはお門違いであろう。オラファー・エリアソンの展示は、チームラボの作品を楽しめる類の選ばれし者に向けられたものなのだ。《あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること》や《サンライト・グラフィティ》で巧みに踊ってみせることのできる人であり、《ビューティー》で嬉々としてずぶ濡れになれる人である。「サステナビリティの実験室」の野菜屑から出た汁で描いた絵画を小学生の夏休みの自由研究だとはけっして思わない人である。死んだ魚の濁った目ではなく、生まれたての猫の輝く目で世界を見つめる力が要求されているとでも言い換えられようか。実際、幼い子供たちが作品を楽しむ姿は微笑ましい。百貨店から潰えてしまった屋上遊園地のような展覧会なのだ。そのような嗜好に投じることができない者が違和感を覚えたとしても、それは、Soup Stock TokyoでTaro Okamotoになる輩と同じ過ちを犯しているに過ぎない。