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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『第22回亀倉雄策賞受賞記念展 菊地敦己 2020』

展覧会『第22回亀倉雄策賞受賞記念展 菊地敦己 2020』を鑑賞しての備忘録
クリエイションギャラリーG8にて、2020年7月20日~9月2日。

『野蛮と洗練 加守田章二の陶芸』展の図録が第22回亀倉雄策賞に輝いたことを記念して開催される、菊地敦己の個展。

亀倉雄策賞の受賞作である『野蛮と洗練 加守田章二の陶芸』展の図録は、かつて学術書で一般的だったような外函に収められている。もっとも、学術書の外函とは異なり、淡黄一色ではなく、下3分の2を黒が覆う。上部の淡黄には黒で横書きの「野蛮と洗練」、下部の黒には白で縦書きの「加守田章二の陶芸」が配されている。土壁のような和らいだ印象を黒地がぐっと引き締め、地味ながら精悍な印象を生んでいる。しかも、このケースの中からは、加守田章二の作日院に見られる緑・白・海老茶の3色の波線に「野蛮と洗練」の金の文字が配された表紙が姿を見せる。表紙のトリコロールは本を開いたときも常に脇に姿をのぞかせ、紹介される作品群が加守田章二の世界の枠組みの内に存することを主張する。

イラストや写真を用いた作品ももちろん優れたものばかりが並んでいるが、衝撃的なのは、ほぼ文字だけで魅せる作品群。中でも、青森県立美術館矢野顕子のコンサートのチラシに至っては、必要最小限の情報が蛍光オレンジの文字のみで表されている。だが、物足りなさなどまるで感じない。かえって、「ピアノ一台あれば、“注文”に応じて全国どこへでも」というコンセプトを伝えるにはむしろこのシンプルさにおいて他に無いと思わされてしまう。なおかつ、ピアノと矢野顕子の歌声とが生み出すであろう豊かな音楽が、踊るオレンジの文字たちから想像されるのだ。その上には、「矢野チラシ」のオレンジとのコントラストも見事な、黒・緑・白の「すばらしい新世界」展のチラシが掲示されていた。こちらもほとんど展覧会概要を紹介する文字(黒と緑)で埋め尽くされている。一歩間違えば、退屈な画面で「大火傷」するに違いない。それにも拘わらず、タイトルの一部に重ねられた緑の長方形の一部(小さい正方形)を微妙に下にずらす、ただそれだけで展覧会が提示する「パラダイム・シフト」を表現し、画面に生命を吹き込んでいるのだ。恐るべし。