可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ポルトガル、夏の終わり』

映画『ポルトガル、夏の終わり』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のフランス・ポルトガル合作映画。100分。
監督は、アイラ・サックス(Ira Sachs)。
脚本は、マウリシオ・ザカリーアス(Mauricio Zacharias)とアイラ・サックス(Ira Sachs)。
撮影は、フイ・ポーサス(Rui Poças)。
編集は、ソフィー・レンヌ(Sophie Reine)。
原題は、"Frankie"。

 

ポルトガルのシントラにあるホテル。朝、誰もいないプールに一人姿を現したフランキー(Isabelle Huppert)が泳ぎ始める。孫のマヤ(Sennia Nanua)が朝食を運んで来て、写真を撮られてしまうと注意する。フランキーは女優で、ビキニのトップスを外してプールに入っていた。私は写真映えするのよとフランキーは全く気にしない。
マヤの一家はフランキーに招かれてシントラにやって来た。マヤの母シルヴィア(Vinette Robinson)は、フランキーの夫ジミー(Brendan Gleeson)の連れ子だった。シルヴィアは夫イアン(Ariyon Bakare)と部屋で話をしている。よりによってこんな時期に旅行なんて。
フランキーと前夫ミシェル(Pascal Greggory)との間の子ポール(Jérémie Renier)がシルヴィアの部屋を訪れ、自分の部屋は水漏れがあって、眠れないと愚痴る。神経質なんじゃない? イアンと一緒でいいなら部屋を替わろうか。ポールはニューヨークに拠点を移すことを告げる。フランキーの資産を法人化する話はどうなったの? 弁護士が尊大な奴でね。
シルヴィアはフランキーの部屋を訪ねる。フランキーは昔付き合っていた金持ちから贈られたというブレスレットを身につけていた。派手でしょ? 私はね、愛と金とを混同しないようにずっと気をつけていたわ。
シルヴィアが屋外でこそこそと電話しているのをマヤに見咎められる。シルヴィアは夫イアン(Ariyon Bakare)との離婚を考え、娘と二人で暮らすための物件を探していた。イギリスでは(夫婦の一方のみが離婚の意思を有する場合)5年の別居が離婚の条件の1つとされているからだ。マヤは母親の行動が気に入らず、一人で出かける。午後、皆で岬に行く約束を忘れないでよ。約束は出来ない。マヤはトラムに乗り、プライヤ・ダス・マセンスへ向かう。
ジミーがパステラリアでフランキーのためにケイジャーダを購入する。ジミーが気落ちしているのを見て店員は慰めるように対応してくれる。店を出たところで、ジミーは女性から声をかけられる。彼女はアイリーン(Marisa Tomei)。ニューヨーク在住のメイクアップアーティストで、フランキーと親しかった。二人でニューヨークのレストランの話などをしていると、アイリーンの恋人で映画『スターウォーズ』にも携わっている撮影監督のゲイリー(Greg Kinnear)がジミーに挨拶する。フランキーのファンです。羨ましい。ミシェルとガイドのチアーゴ(Carloto Cotta)が現れる。道に迷っていたゲイリーはチアーゴから案内を受け、アイリーンとともに立ち去る。ジミーはミシェルとチアーゴの史跡巡りに同行することにする。
ゲイリーは眺めの良い場所に来ると、アイリーンに欲しがっていた指輪を贈る。そして、ニューヨークの中心部を離れ、郊外の水辺の邸宅で一緒に暮らそうと提案する。プロポーズなの? そうとってもらっても構わない。アイリーンはゲイリーの話を聞きながら歩いていたが、人混みの中に入ったとき、行方をくらませてしまう。

 

女優のフランキー(Isabelle Huppert)が身内とともにバカンスに訪れたシントラでの1日を描く。風光明媚な景勝地で、それぞれの思惑が交錯し、外れていく様を描く。
美しい景色を背景とした会話劇。だが説明台詞が省かれるのはもとより、言葉に頼らず、人物の佇まいで感情や思いを描こうという姿勢が貫かれ、潔い。それゆえに、鑑賞する側の力がそれなりに要求される。
Isabelle Huppertは画面に映るだけでしっかり絵になるのは流石。Isabelle Huppert出演作は数多くあるが、中でも『アスファルト』(2015)はお薦め。
Jérémie Renierは『2重螺旋の恋人』(2017)の精神科医とは打って変わって、さえない中年をうまく表現している。