可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『青くて痛くて脆い』

映画『青くて痛くて脆い』を鑑賞しての備忘録
2020年製作の日本映画。118分。
監督は、狩山俊輔。
原作は、住野よるの小説『青くて痛くて脆い』。
脚本は、杉原憲明
撮影は、花村也寸志。
編集は、木村悦子。

 

田端楓(吉沢亮)は地元を離れ、文修大学に入学。新歓で学生がごった返すキャンパスを一人歩いている。他人との距離を保つことを最優先としている田端はサークルに入るつもりはなかった。大教室で行われていた講義の最中、突然「質問があります」とまっすぐに手を上げる学生(杉咲花)がいた。後にするようやんわりと断られても手を上げ続ける彼女に先生が折れて質問を促すと、彼女は一切の暴力を伴わずに平和を実現する方法を尋ねる。それが可能ならこの講義も必要ないなと苦笑する先生に、他の学生からも失笑が漏れる。そこでチャイムが鳴り、講義は終了。田端は質問をした学生の顔を確認する誘惑に抗えない。彼女は沈痛な面持ちで席に座っていた。学食の窓際のカウンターで一人昼食を取っていると、質問していた彼女が隣は空いているかと声をかけてきた。相手の意見を否定しないことをモットーにしている田端は拒まない。さっき同じ教室で講義を受けていたよね。秋好寿乃って言うの。あなたは? 楓なら秋と繋がりがあるね。サークルはどうするの、私は模擬国連に興味がある。田端の気持ちを知ってか知らずか、秋好は話題を畳み掛けてきた。誰とでも話ができてしまう秋好のような人にとっては、自分はその場限りの話し相手に過ぎず、もっといい話し相手が見つかれば、すぐに忘れられてしまうだろう。次の講義は教室が遠いんだと言い訳をして田端はそそくさと席を立つ。だが田端が履修した別の講義で再び一緒になった秋好は、田端の姿を認めるや否や「おはよう」と声をかけて隣に座った。その講義でも秋好は周囲の反応を気にとめる様子もなく先生に向かって世界平和を実現するための質問を投げかけていた。1ヶ月が経ち、田端は、変わり者の秋好とその連れとして周囲に認知されるようになっていた。サークルを10箇所回ったけれどどこも雰囲気が合わないという秋好に、自分のやりたいことを実現するサークルを起ち上げたらいいとついアドヴァイスしてしまう。一緒に世界平和を実現しようという秋好に、自分は目立ちたくないと告げると、秘密結社にすればいいと返される。田端の服のモアイのワッペンを目にした秋好は「秘密結社モアイ」として活動を開始することを宣言する。チラシを作って配る秋好だが、世界平和を目指す秘密結社など端から見れば怪しい宗教団体と変わりなく、誰からもまともに取り合ってもらえなかった。それでも秋好は使われていない講堂を秘密基地にすると宣言し、二人だけの秘密結社の活動を開始する。海岸のゴミ拾いをし、笹につけた短冊に世界平和を願い、夢を叶えるためのおまじないとして横断歩道は白線だけを歩いた。フリースクールでは農作業を手伝ったり人形劇を演じたりした。田端は、中学で担任から役立たずになると叱責されて不登校になっていた西山瑞希(森七菜)に数学を教えて親しくなった。ある日、秘密基地でフリースクールから送られてきた野菜を囓っていると、社会福祉を研究している脇坂(柄本佑)という大学院生がやって来る。脇坂は秋好に理想を実現するためには活動の規模を拡大していく必要があると説く。脇坂の助力のおかげでメンバーは着実に増えていく。そして「秘密結社モアイ」はフリースクールで祭を開催することに。田端は秋好が脇坂と親しげに作業している姿が目について仕方がない。田端が二人だけのときとは様変わりしたモアイに対して距離を置くようになったと感じた秋好は、祭りの最中、今の方向性でいいのかと確認する。田端は自分の気持ちとは裏腹に現状を否定しようとはしない。祭でバンド演奏を披露した西山のもとに中学の教師・大橋(光石研)がやって来て、自分を変えるよう強く迫る。精神的に追い詰められた西山が農園の案山子で大橋を追い払おうとした際、止めに入った田端は案山子で殴られてしまう。後日、学食で秋好が脇坂と仲良く食事をしている姿を目撃した田端は踵を返す。田端の姿を目にした秋好が駆け寄る。相談したいことがあるという秋好に、田端は脇坂と付き合っているのか確認する。秋好が交際を認めると、田端は食堂を後にする。田端が秋好と言葉を交わす最後の機会となってしまうことも知らずに。

 

大学生にありそうな日常をサスペンスに仕立ててしまう、その手腕に感心頻り。
およそ屈折する要素のない、非の打ち所のないルックスの吉沢亮が、心のねじ曲がった大学生・田端楓を演じてしっかりとした説得力がある。杉咲花も理想に燃えるまっすぐなヒロイン・秋好寿乃に適役で、田端に自ら近づきながら離れていくことで彼を鬱屈させてしまうのも宜なるかな
柄本佑が『Red』(2020)よりもさらに磨きがかかったダンディな男性として現れる。
『君が世界のはじまり』(2020)に主演した松本穂香が本作でも魅力を放っている。
最近はすっかり善人役が配されることの多い光石研だが、本作では少々『共喰い』(2013)のキャラクターを彷彿とさせるような危なさがあって良かった。