可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 山内若菜個展

展覧会『humanité lab 山内若菜展』を鑑賞しての備忘録
ギャルリー東京ユマニテbisにて、2020年8月31日~9月12日。

山内若菜の絵画展。
展示室入口の向かい側の壁に掲げられた、3メートルを優に超える《牧場 放》がまず目に入る。一瞥するところでは、マルク・シャガール宮崎進との折衷といった印象である。画面の下半分には、右側の岸辺に家並みと森が、中央に青い川を渡って対岸に向かう白い家畜の群れが、左側の岸辺には赤い大地の広がりと空を見上げる大きな赤べこが描かれている。家畜の移動と赤べこの眼差しに促され、本作品の中心となるモティーフである、画面上部の人物の騎乗する牛へと視線を送ることになる。天翔る牛は太陽の黄色い光に包まれ、馬の群れが前後を併走する。黒い輪郭線で表される動物たちの躍動は、紙を貼り接いで作られた画面の皺や縒れや穴の数だけ増幅されるようで、荒々しく迫ってくる。描き込まれた数々のモティーフを目で追っているうちに、綿や毛などが塗り込められていることにも気が付く。額縁に収められた絵画を異世界への窓ないしプロジェクターに投映されたイメージに見立てるなら、本作品は、ゴツゴツとした岩肌の手触りを訴える洞窟壁画になろう。《牧場 放》に対して右手の壁には、同様の手法で描かれた天使のような少女の立像《夏》と《冬》が展示されている。とりわけ《冬》は凹凸のある壁に刻み込まれた石仏のような印象がある。それらの向かいにある展示されている額装された小品群中の聖母像のモティーフと相俟って、地下の展示室はカタコンベとして立ち現れる。