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芸術鑑賞の備忘録

映画『スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』

映画『スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』を鑑賞しての備忘録

2019年製作のフランス映画。114分。

監督・撮影は、エリック・トレダノ(Éric Toledano)とオリビエ・ナカシュ(Olivier Nakache)。

撮影は、アントワーヌ・サニエ(Antoine Sanier)。

編集は、ドリアン・リガール=アンスー(Dorian Rigal-Ansous)。

原題は、"Hors normes"。


少女が脇目もふらず、街を疾走している。ムニール(Ahmed Abdel Laoui)やセドリック(Darren Muselet)らが後を必死に追いかける。別の方向から回り込んだマリク(Reda Kateb)が捕まえて、彼女を落ち着かせる。少女は、ブリュノ(Vincent Cassel)が運営する自閉症の子供たちのための施設「正義の声」の入所者。マリクは社会からドロップアウトした若者の就労支援に取り組む「寄港」という団体の代表で、ムニールやセドリックらを「正義の声」のスタッフに送り込み、社会経験を積ませていた。

ブリュノがメトロの駅に急ぐ。非常停止ボタンを押してRATP(パリ交通公団)の警備員に連行されたジョセフ( Benjamin Lesieur)を連れ戻すためだった。駅の事務室に入り、ジョセフの姿を見つけ、声をかける。僕は悪くない。ブリュノはジョセフを連れて出て行こうとする。すると、警備員に見咎められる。今回が初めてではないこと、警備員に噛み付こうとしたことなど連行した理由を論う。ブリュノが弁解してその場を立ち去ろうとする。「母さんを叩いていい?」と口走るジョセフ。この子は冗談が好きでね。ところでボタンはどこで押されましたか? 事務室を出ると、ブリュノはジョセフを褒める。橋の上まで我慢して乗れたんだから、あともう少しだ。ブリュノはジョセフを家に送る。ジョセフの母エレーヌ(Hélène Vincent)が出迎え、ブリュノにコーヒーを勧める。予定が立て込んでまして。エレーヌはブリュノにパイナップル入りのケーキを持たせる。「便利で経済的で丈夫」。お気に入りの洗濯機のコマーシャルに見入るジョセフは、すっかり落ち着いていた。

ブリュノが「正義の声」に戻ると、いつも通り、自閉症の子供たちとスタッフがてんやわんやの騒ぎを繰り広げていた。一人一人に声をかけながら事務室へ向かう途中、きちっとした身なりの見慣れない男性(Frédéric Pierrot)と女性(Suliane Brahim)の姿を見かける。会計士のアルバート・フラッティ(Christian Benedetti)がブリュノを待っていた。遅刻は1時間に収まっているので全く問題ない。穏やかに話してくれるなら話を聞く用意はあるがね。穏やかに話そう。IGAS(社会問題監察総監)の監査が入っている。社会保健省の定期監査じゃないんだ。監査の結果、代替措置を採ると言われたら、閉鎖だ。定員も予算もオーバーしている。今後一切「なんとかする」と口走ることのないように。

ブリュノは緊急地域医療センターに向かう。ロンサン医師(Catherine Mouchet)からヴァランタン(Marco Locatelli)の外出を依頼されたのだ。ヘッドギアをしている姿を見たブリュノは、外せないのかロンサン医師に尋ねる。頭突きをする習慣があるのでヘッドギアは外せないが、それでも拘束されていない分、彼にとって状況はましになっているはずと説明される。

マリクは「寄港」のメンバーとともに「正義の声」の入所者をスケートリンクに連れてきていた。スタッフが子供たちにスケート靴を履かせているところへ、ディラン(Bryan Mialoundama)が遅れてやって来る。マリクはディランに時間を守るよう注意する。皆がスケートに興じているところへブリュノがスタッフを求めてやって来る。

 


医療機関から見放された重度の自閉症の子供たちを救う無認可の施設「正義の声」の活動を、「正義の声」代表のブリュノ(Vincent Cassel)、「正義の声」の活動に関わる若者の就労支援団体「寄港」代表のマリク(Reda Kateb)とスタッフたちの奮闘を軸に描く。

重度の自閉症の子供たちへの対応に休みはない。次から次へと問題が起こり、ブリュノの電話には常に対応を求めて連絡が入ってくる。ブリュノはユダヤ教徒専用の出会い系(?)"Shiddou'h"にまめに顔を出しているのだが、紹介された女性とろくに話もできないまま仕事で呼び出されてしまう。ブリュノにとって息抜きになっているかどうかは怪しいが、世話焼きのメナエム(Alban Ivanov)も登場する"Shiddou'h"のシーンや、入所者の母親ディアバテ(Fatou-Clo)の5番目の娘(Manda Touré)をめぐるブリュノとエヴァ(Sophie Garric)とのやり取り(ユダヤ系からアフリカ系に乗り換えたのかっ!)などは、この映画の鑑賞者にとって息をつける瞬間となっている。

IGASの監査官と対峙したときのエレーヌ(Hélène Vincent)の吐露、ロンサン医師(Catherine Mouchet)の指摘、そして何よりブリュノの発言が全てを物語る。

邦題は、英題の"The Specials"を受けてのものだろう。原題"Hors normes"は「規格から外れて」いるということ。健常から外れた自閉症自閉症児者の中でも医療機関に相手にされなかったcomplexeな自閉症児たち、社会からドロップアウトした若者たち、認可を受けていない施設、そして、規格外の愛情と熱意を持った人たち。