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芸術鑑賞の備忘録

映画『オフィシャル・シークレット』

映画『オフィシャル・シークレット』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のイギリス・アメリカ合作映画。112分。
監督は、ギャビン・フッド(Gavin Hood)。
脚本は、サラ・バーンスタイン(Sara Bernstein)、グレゴリー・バーンスタイン(Gregory Bernstein)、ギャビン・フッド(Gavin Hood)。
撮影は、フロリアン・ホーフマイスター(Florian Hoffmeister)。
編集は、ミーガン・ギル(Megan Gill)。
原題は、"Official Secrets"。

 

2004年2月25日。ロンドンのオールド・ベイリー(中央刑事裁判所)。キャサリン・ガン(Keira Knightley)が暗い階段を上っていき、法廷内に設けられたガラス張りの被告人席に立つ。公務秘密法(Official Secrets Act)1条1項違反で公訴が提起されてから既に3ヶ月。逮捕から起算すると11ヶ月が経過していた。
2003年1月。キャサリンは、夫ヤシャル・ガン(Adam Bakri)と自宅で過ごしていた。テレビでは、トニー・ブレア首相が、イラク大量破壊兵器保有していると、イラクに対してアメリカとともに軍事行動をとる必要性を訴えている。もっとも、国連においては、イラク大量破壊兵器保有の決定的な証拠は発見されていないとの報告がなされていたため、キャサリンは、ブレアの主張に納得がいかず、憤りを感じている。
キャサリン政府通信本部(GCGQ)に向かう。幼少期を台湾で過ごしたキャサリンは、中国語の翻訳を担当していた。8カ国語を操る同僚のミー・ヤン(Niccy Lin)とは中国語でも会話を交わす。自分の席に着くと、隣席のアンディ・ダムフリーズ(Jack Farthing)がキャサリンシナモンロールに手を伸ばしてきた。空腹だという彼に半分を渡してやる。中国語の音声を文章に起こす作業をしていると、メールが着信する。発信者はアメリカ国家安全保障局(NSA)の地域目標部門のチーフであるフランク・コーザ。内容は、国連安保理非常任理事国6カ国の代表団の盗聴を指示するもの。対イラク攻撃を承認する安保理決議を得るためのアメリカによる秘密工作にイギリスが加担させられるものだった。キャサリンは憤慨し、アンディにメールについて相談する。アンディが現場責任者のフィオナ・バイゲート(Monica Dolan)に対しメールについて疑義を呈すが、却下される。心痛したキャサリンは夫の勤めるカフェに立ち寄る。ヤシャルはイラク出身のクルド人。イギリスで難民申請したが認定されず、キャサリンと結婚した現在も、定期的に警察署に出頭していた。政治の問題に関与して、事を荒立てるようなことは避けたかった。キャサリンは意を決して、田舎暮らしをしている反戦活動家のジャスミン(MyAnna Buring)のもとを訪ねる。携帯電話のバッテリーを外してあることを示して、キャサリンは本題を切り出す。フランク・コーザのメールを知り合いのジャーナリストにリークして欲しいの。自分が何を言っているか分かっているの? 公務秘密法を犯せっていうの? それでもキャサリンは違法な戦争の抑止を訴え、ジャスミンの協力を取り付ける。職場でメールの文面をコピーして記憶装置に落とし、プリントアウトする。出所がばれないよう紙面を一部カットした上で、裏面にヘッダー情報を手書きして、封筒に入れ、ポストに投函する。
ロンドンをはじめイギリス全土でイラク戦争反対のデモが繰り広げられている。テレビでは歴史的不人気の戦争との報道も。戦争支持を掲げる『ザ・オブザーバー』紙編集部では、アメリカ帰りのエド・ヴリアミー(Rhys Ifans)が編集長のロジャー・アルトン(Conleth Hill)にイラク戦争に対するスタンスを変えるよう迫っている。カマール・アーメド(Ray Panthaki)が政府から直接情報をもらえていると指摘すると、ブレアの広報じゃないんだと一喝する。マーティン・ブライト(Matt Smith)もピーター・ボーモント(Matthew Goode)もその点ではエドに同感だったが、社説を転換する決め手となるネタが無かった。イヴォンヌ・リドリー(Hattie Morahan)から接触したいとの連絡がマーティンに入る。イヴォンヌはNSAの秘密工作の証拠となるメールのコピーを呈示してきた。

 

政府通信本部(GCGQ)に中国語通訳として働いていたキャサリン・ガン(Keira Knightley)が、根拠無くイラクに対して武力行使を行うことを阻止しようと、職務上知り得た情報をリークしたため、公務秘密法違反で公訴提起された事実をもとにした作品。
公務秘密法違反の抗弁としては「やむを得ない事情」が唯一の方途であった。「やむを得ない事情」とは、生命を守るような場合を指すと解されていたが、弁護を引き受けたベン・エマーソン(Ralph Fiennes)は、違法な戦争によって失われる人命の保護を持ち出すことにする。
公判後では実際のKatharine Gunの映像が挿入される。"I have no regrets and would do it again."
エンディングでは、ベン・エマーソン(Ralph Fiennes)と、彼の元同僚で、キャサリンに対する公訴を提起したマーク・エリソン(Angus Wright)とのやり取りが描かれる。「アイヒマン」になるのは避けたいが、仮に「アイヒマン」になってしまったとして、そのことに無自覚なまま、呵責を感じないでいることはもっと避けたい。そう思わせる、エンディングであった。
トニー・ブレア(プードル)も小泉純一郎プレスリー)もジョージ・W・ブッシュに何の根拠無く従って、何の責任も取っていない。
ヤシャル・ガン(Adam Bakri)は難民認定の不服申し立てをしているのだろうか。なぜ定期的に警察に出頭しているのかが不明であった(結婚しているので、配偶者としてのビザはあるだろうから)。
イギリス英語とアメリカ英語の綴りの違いが大問題に。