映画『TENET テネット』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のアメリカ映画。150分。
監督・脚本は、クリストファー・ノーラン(Christopher Nolan)。
撮影は、ホイテ・バン・ホイテマ(Hoyte van Hoytema)。
編集は、ジェニファー・レイム(Jennifer Lame)。
原題は、"Tenet"。
ウクライナの首都キエフ。国立歌劇場は満員。ステージではオーケストラの楽団員が調音している。音が止み、指揮台に立った指揮者が指揮棒を振ろうとした矢先、銃撃に倒れる。覆面の集団が時折銃を撃ちながら乱入してホールを制圧する。治安部隊の車両が続々と歌劇場に到着し、テロリストの掃討作戦を開始する。駐車場の車で待機していたCIAエージェントの「主人公」(John David Washington)らが、治安部隊に紛れて行動を開始する。潜入していたエージェント(Juhan Ulfsak)を救出し、彼の入手したプルトニウムをクロークで回収することに成功する。CIAのメンバーと集合場所で落ち合ったが、観客の犠牲を最小限にするため時限起爆装置回収のため再び会場に向かう。撃たれかかったところを間一髪で赤い紐を垂らした人物に救出される。起爆装置の爆破直前に歌劇場を出て車に乗り込むが、ロシア人の傭兵(Alex Wexo)に捕まってしまう。車両基地で椅子に縛り付けられた「主人公」が傭兵から歯を抜く拷問を受けている際、隙を突いて自決用のピルを飲み込む。
「主人公」が目を覚ます。上司のフェイ(Martin Donovan)が控えていた。君は昏睡状態に陥っていた。火災現場で人を救出したくとも、火の熱さを知ると躊躇するものだ。だが君は仲間を救うために敢然と死を選んだ。テストには合格だ。皆が合格するわけではない。フェイは「テネット」という言葉が導く新たな任務を与える。断ろうとする「主人公」に、一度は死んだんだと引き受けさせる。いったん海上の風車に侵入した「主人公」は、作業員の交代に紛れて港へ。別のエージェントの乗って来た車に代わって乗り込むと、ある研究施設を目指す。研究者のバーバラ(Clémence Poésy)によって迎えられた「主人公」は、射撃訓練場のような場所に連れて行かれる。既に何発も弾が撃ち込まれた壁の残骸らしい的を撃つよう促される。銃弾の装填されていない軽い拳銃を渡され、「主人公」が不思議に思いながら銃を構え引き金を引く。すると、的に刺さっていた銃弾と脇にあった薬莢が瞬時に拳銃の弾倉に収まるのだった。撃つのではなくて摑むのよ。エントロピーの消失。時間の遡行。バーバラは台に置いた二つの銃弾を示し、どちらが「掴める」銃弾か見分けられるか「主人公」に問う。戸惑う彼に対し、台の上に手をかざし、銃弾を手のひらで摑んでみせる。「主人公」も同じ動作に挑戦し、理論ではなく、直感が物理的な反作用を可能にする感覚をつかむ。バーバラによればミッションは第三次世界大戦の阻止だという。核戦争の回避? いいえ、もっと悲惨なものよ。過去の一掃。バーバラは反作用が付与されている未来からの「遺物」を「主人公」に示すのだった。
エントロピーの減少による物質の時間の逆行を利用して、世界の消滅を救う物語。テンポはいいがその分状況把握も難しい。物理法則をめぐる未来の技術については頭に疑問符が次々と浮かぶ。だが、「よくもまあそんなことを(思いついた)」という映像に飲み込まれ、あっという間にクロージングクレジット。
『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)が一つの典型だろうが、映画は、未来からの過去への介入なのだろう。そのような映画の本質をSFとして描いているのが本作とも言える。
「反物質」を示唆する台詞があったように思うが、物質と反物質との衝突による「対消滅」の展開は描かれていなかった。
世界を救う「主人公」という役割が強調されるシーンが2回ほどあったが。主演の役に名前がないことに鑑賞中、全く気付かなかった。名前が与えられていないのは、ゲームの「主人公」のように、そこに鑑賞者を代入する仕掛けだろうか。
Elizabeth Debickiの初登場するシーンで、そのスタイルの良さに度肝を抜かれる。彼女が脚でハンドルを操作しようとするシーンが非常に魅力的(極めて短時間なのが残念)。