映画『鵞鳥湖の夜』を鑑賞しての備忘録。
2019年製作の中国・フランス合作映画。111分。
監督・脚本は、ディアオ・イーナン(刁亦男)。
撮影は、トン・ジンソン(董劲松)。
編集は、コン・ジンレイ(孔劲蕾)とマチュー・ラクロー(Matthieu Laclau)。
原題は、"南方車站的聚會"。英題は、"The Wild Goose Lake"。
2012年の中国。南方の郊外にある駅の高架下。チョウ・ザーノン[周泽农](胡歌)が柱の陰で一人、妻ヤン・シュージュン[杨淑俊](万茜)が訪れるのを待っている。服役していたため、会うのは5年ぶりとなる。雨が降りしきる夜で、駅階段脇の軽食店が営業しているものの、辺りには誰もいない。そこへ赤いカットソーに黒いミニスカートという出で立ちのベリーショートの若い女性(桂纶镁)が透明なビニール傘を差して現れる。彼女は少し躊躇った後、タバコを取り出し、ザーノンに火を貸してくれないかと声をかける。警戒しつつもライターを取り出し彼女のタバコに火を点ける。チョウ・ザーノンでしょ。奥さんなら来ないわ。警察の手の者ならもう捕まえてるでしょ。ホアホア[华华](奇道)とチャン・チャオ[常朝](李志鹏)に頼まれて来たの。奥さんの代わりはしてあげられるけど。彼女はリウ・アイアイ[刘爱爱]。海水浴場で性的サーヴィスを行う「水浴嬢[陪泳女]」だった。本当にチョウ・ザーノンなのかと訝るアイアイに彼は経緯を話す。
ザーノンは開発地区にあるシンチンドゥホテル[兴庆都宾馆]に向かう。オートバイの大規模な窃盗団が技術講習会を行っているのだ。ザーノンは、窃盗団を構成する複数のグループの1つのリーダーだった。3台のオートバイを前に、GPSの位置や警報装置の作動を停止する方法などが説明されていく。取り囲む大勢の若者が熱心に聞いている。U字ロックが付いていたら諦めろ。一番価値がある部品は何だ? そうだ、バッテリーだ。バッテリーを取り外せ。続いて、マー・グー[马哥](刘畅)がグループごとの担当区域を発表していく。突然、マオイェン[猫眼](常嘉豪)・マオアー[猫耳](常嘉壮)兄弟がザーノンの割り当てを区域をよこせと要求する。マー・グーはザーノンには実績があると妥協を促すが、収監期間は関係ないと食って掛かる。文句があるなら後で聞こうとマー・グーは話を進める。すると、ザーノンのグループに属する金髪の若者ジャン(汤青松)が怒りにまかせて兄弟に突っかかり、マオアーの脚を拳銃で撃ち抜いてしまう。会場は乱闘騒ぎとなり、会場の後ろで一人静かに状況を見ていたザーノンも巻き込まれる。脚から大量の血を流すマオアーは運ばれていき、怒りに震えるマオイェンは「金髪」を蜂の巣にしてやると息巻く。マー・グーが任せておけとマオイェンに処理を請け合い、ザーノンに対して、二つのグループで制限時間内に何台バイクを盗めるか競わせることで決着を付けようと提案する。バイク窃盗競争が行われる中、復讐を遂げようとジャンの動きを窺っていたマオイェンは、先回りしてトンネルの先にフォークを上げた状態のフォークリフトを停車する。気付かずに走行したジャンはフォークに衝突する。ジャンの後を走行していたザーノンは、ジャンの死体に駆け寄るが、マオイェンに狙撃されて胸部を撃たれる。追撃を逃れ、転がっていたジャンのバイクに跨がったザーノンは、逃走中、マオイェンの手下と勘違いして警官を誤って撃ち殺してしまう。
警官殺しのチョウ・ザーノン(胡歌)の逃走劇。無茶な展開もねじ伏せる強さがある。
リウ・アイアイ(桂纶镁)が、「陪泳女」という性的に搾取される立場にあり、男性の暴力に曝される中で育まれた強かさを凜とした美しさで魅せる。そのキャラクターを象徴するベリーショートがよく似合う。チョウ・ザーノンにとっては敵か味方か曖昧なキャラクターでもある。
キャラクターを影に置き換えて動かしたり、闇の中にピンクや緑などの鮮やかな光を充満させたり、緊張感を高めるのに銃声以外の作業音などを用いたりといった演出が印象的。挿入されたダンスシーン("Rasputin")や、動物園や見世物小屋(?)の場面も興味深い。
窃盗団や性風俗だけでなく、開発に伴う移転強制や捜査に翻弄される市井の人々の姿も描き込まれている。
「金髪」殺しは、『悪の法則(The Counselor)』(2013)の「ワイヤー」アクションを髣髴とさせる。
劇中で流れる曲の1つ"Dschingis Khan"。ドイツ語だったとは。