可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『エマ、愛の罠』

映画『エマ、愛の罠』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のチリ映画。107分。
監督は、パブロ・ラライン(Pablo Larrain)。
脚本は、ギレルモ・カルデロン(Guillermo Calderón)、パブロ・ラライン(Pablo Larrain)、アレハンドロ・モレノ(Alejandro Moreno)。
撮影は、セルヒオ・アームストロング(Sergio Armstrong)。
編集は、セバスティアン・セプルベダ(Sebastián Sepúlveda)。
原題は、"Ema"。

 

チリの港町バルパライソ。夜、人気の無い通りで、信号機が燃えている。離れた場所から、火炎放射器を装備した女性が信号機の上げる炎を見つめている。
エマ(Mariana di Girolamo)が未成年保護局に向かい、マルセラ(Catalina Saavedra)のオフィスに顔を出す。ここには来ないように言ったはずだと外に連れ出されたエマは、マルセラにポロ(Cristián Suárez)について尋ねる。だがマルセラは若いエマが母親としての適性に欠けるとひどく憤慨しており、とりつく島も無い。エマが食い下がると、若いのだからポロのことは忘れて新しい人生を送れと突き放す。それでもエマはポロが別の養親に引き取られたことを知る。
エマ(Mariana di Girolamo)は、フランス帰りのコレオグラファーであるガストン(Gael García Bernal)が主宰する舞踊団に所属するダンサー。ガストンはエマより一回り上の夫でもあるが、性的不能で、不妊治療もうまくいかなかった。そこで二人は、児童養護施設に入所していたコロンビア出身のポロを養子に迎えたのだ。ところが、ポロは愛情を確認するためか次から次へと問題を引き起こし、遂には放火により姉ソニア(Giannina Fruttero)の顔に大火傷を負わせてしまう。ポロを児童養護施設に戻さざるを得なくなったエマとガストンは、顔を合わせればポロの養育をめぐってお互いを非難し合うようになる。エマは小学校でダンスの授業を受け持ち子供たちにも慕われていたが、母親が指導を続けながら子供だけが姿を見せなくなったことを生徒たちに説明できないと、エマを快く思っていなかった教員たちによって学校を追われる。マルセラがガストンと話しているところへ帰宅したエマは、養子縁組のためにマルセラに資金を提供したことを指摘するが、マルセラは資金の供与など一切受けていないと否定する。その上で、ホモセクシャル、可逆的な性的嗜好など、不都合な事実はもみ消すことで養子縁組にできる限り協力したと主張し、ガストンとエマを罵倒して立ち去っていく。エマが未成年保護局を訪れたことを知ったガストンがエマを非難する。エマは荷物をまとめて家を出て、ダンサーのペルラ(Josefina Fiebelkorn)をもとに身を寄せることにする。エマは弁護士ラケル(Paola Giannini)を訪ね、離婚に必要な書類を一式揃えて欲しいと依頼する。旦那は一回り上だけど、弁護士さんは年上って好み? 私は依頼人の話を聞く立場だし、私のことを気にする人なんていないわ。あたしは知りたいけどね。そうそう、一つ言っておかなきゃ。お金は用意できないの。エマの言葉に呆れるしかないラケル。書類を作るのは仕事なのよ。皿洗いでも子供の送り迎えでもダンスでも何でもするから。それなら踊ってみて。エマは体を動かし始める。冗談よ。ラケルの言葉に構わず、エマは机に飛び乗ると即興でダンスを始める。愉快そうに見上げるラケル
エマからポロを取り戻したいと相談されたダンス仲間のペルラ、マリア(Paula Luchsinger)、ラウラ(Paula Hofmann)、レナータ(Antonia Giesen)、パウリーナ(Susana Hidalgo)、リサ(Natalia Bakulic)は、どんなことでも手助けするとエマを励ます。エマにはある考えがあった。

 

ダンサーのエマ(Mariana di Girolamo)が養子のポロ(Cristián Suárez)を取り上げられた後の顚末を描く。
ダンスのシーンが所々で挿入される。前半はガストン(Gael García Bernal)の舞踊団の公演と、それと同じ振り付けをエマが小学校で指導する様子とを組み合わせて、後半はバルパライソの街を舞台にレゲトンに合わせたダンス。とりわけ、建物の鮮やかな色彩が映える通りや、港越しの夜景などを舞台とした後半のダンスシーンが印象的。
信号機に象徴される規律に対し、火に象徴される欲望や自由で乗り越えていく。火炎放射器を握るエマは、欲望を制御しつつ発散する術を手にしたこと、ペニス(男性性)を手にしたことを象徴するのだろう。
エマを演じたMariana di Girolamoが強く印象に残る。