可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『JAGDA新人賞展2020 佐々木俊・田中せり・西川友美』

展覧会『JAGDA新人賞展2020 佐々木俊・田中せり・西川友美』を鑑賞しての備忘録
クリエイションギャラリーG8にて、2020年9月8日~10月15日。

日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)が『Graphic Design in Japan』出品者の中から選出した「JAGDA新人賞」受賞者を紹介する企画。

佐々木俊
東京国立近代美術館で開催された「デザインの(居)場所」展(2019)のポスターがやはり目を惹く。展覧会の基本情報の文字列をオレンジ(緑のバージョンも)をベタ塗りした不定形の領域の外側に配することで、何かが隠蔽されているとの印象を受ける。いったい何が隠されているのかを知りたいという欲求が、ポスターに吸引力を生んでいる。不定形の領域が動くデジタルサイネージでも、その秘匿の魅力が遺憾なく発揮されている。
太田市美術館・図書館で開催された「ことばをながめる、ことばとあるく——詩と歌のある風景」展(2018)に出品された《詩の標識、あるいは看板》は、最果タヒの詩の一節を標識や看板にしたもの。昔の(?)バス停のような支柱に取り付けられた板による標識や、二本の棒に渡された板による看板には、原色や蛍光色で塗られた円や矩形などの幾何学的図形が配され、その中に詩の行が挿入されている。「ここは渋谷」・「きみのこと嫌いになってあげようかって言えるぐらい」・「かわいくなきゃ殺される場所 夢の街」の看板の場合、右上の「ここは渋谷」は黄色の地にピンクの文字の縦書きで、文字のサイズが一番大きいため、まずはそこに眼が行く。左端の「きみのこと嫌いになってあげようかって言えるぐらい」は黒を背景にした白い文字を縦書きで、文字は小さいが明暗のコントラストが一番強い。その文字列の最後からすぐ右側に横書きで「かわいくなきゃ殺される場所 夢の街」が配されることで、詩の文字が順序通り流れていく。「夢の街」が、「ここは渋谷」からまっすぐ下に位置することで、「ここは渋谷」=「夢の街」という骨格も明らかになる。派手な色彩は、どういうわけか人目を引く働きに徹して、決して詩の意味を阻害することがない。詩を見せる工夫に唸らざるを得ない。

田中せり
NECとやなか珈琲が共同開発した「飲める文庫」(2017)は、AIが名作文学のレヴューを分析して、苦みや飲み応えといったバランスに変換することでブレンドされたコーヒー豆。パッケージは、クラフト紙(?)に「こころ」、「舞姫」、「三四郎」などのタイトルをイメージカラーの上に記したシンプルなもので、珈琲を飲みながら文学に浸る静謐な空間を表現している。ポスターはそのパッケージを重ねるように並べることで、作品名をあえて部分的に隠してある。たとえ隠してあって何が書かれているのかがすぐに分かってしまうことで、文学作品の知名度をかえって意識させる仕掛けとなっている。

西川友美
《ぞう》のような暢気なイラストで知られる(?)作家。紙袋から飛び出すバゲットがフランス人のエスプリを象徴するなら、買い物籠(レジ袋?)から飛び出すネギが日本人の魂だと言わんばかりのネギの図像に、日常空間に紛れてしまうようではっきりと自己を主張できる作家性が見られると考えていた。「CHORO」というカードゲームのイメージ映像では、特徴あるイラストがアニメーションになっていて、イラストに文字通りanima(魂)が吹き込まれたかのようであった。こんなにも楽しい世界を生み出す作家だったのかと驚かされた。