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芸術鑑賞の備忘録

映画『異端の鳥』

映画『異端の鳥』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のチェコ・スロバキアウクライナ合作映画。169分。
監督・脚本は、バーツラフ・マルホウル(Václava Marhoula)。
原作は、イェジー・コシンスキ(Jerzy Kosiński)の小説『ペインテッド・バード(The Painted Bird)』。
撮影は、ウラジミール・スムットニー(Vladimír Smutný)。
編集は、ルディエク・フデツ(Luděk Hudec)。
英題は、"The Painted Bird"。チェコ語題は、"Nabarvené ptáče"。

 

少年(Petr Kotlár)がオコジョ(?)を抱えて森の中を疾走している。二人組の猟師が少年の後を追い、捕まえられた少年は殴られ、オコジョはその場で油をかけて燃やされる。少年は死骸を抱えて草原の中に孤立する家に戻る。家の前の井戸で水を汲んでいた老女マルタ(Nina Sunevic)が顔に怪我をした少年に気が付く。一人で出かけるからだ。靴を磨くんだ。靴の汚い奴は半人前だ。少年は靴を磨き、オコジョの墓を作って埋める。草原を流れる小川で、「僕を家に帰して」とメッセージを書き込んだ両親と自分を描いた絵を葉で作った舟に付けて流す。部屋では家族写真を眺めて気持ちを慰めた。マルタは少年のために料理を用意し、盥にはった湯で体を洗うなど、世話を焼いた。ある朝少年が目覚めると、扉にカーテンがかかっていた。マルタが盥の湯を使うときにはいつもかけてあるものだ。少年はベットに入ったままカーテンが外されるのを待った。だがいつまで経ってもカーテンが降ろされる気配が無い。夜、灯りを点してドアを開ける。マルタのもとに近付くと、座ったまま事切れていた。思わずランプを落としてしまう。灯油が溢れて瞬く間に火が広がっていく。少年は燃え上がる家を前に呆然と立ち尽くすほか無かった。
翌朝、一人残された少年は焼け跡を後にして、目の前の道を当てもなく辿っていく。ある村に着いた少年は、村人たちに囲まれる。家に帰りたいと叫ぶ少年を彼らは袋だたきにする。少年は捕縛されて村人たちの尊崇を受ける呪術師オルガ(Alla Sokolova)のもとに連れていかれる。村人たちが不安そうに見守る中、オルガは少年の目を見て悪魔の使いだと、口の中を確認して吸血鬼に違いないと言い放つ。オルガは引き取ると言って縄を付けたまま少年を連れ去る。以後、オルガは村人の治療に出向く際は必ず少年を伴い、治癒の儀式の助手を務めさせた。悪疫が発生し、村人たちが次々と斃れていく中、オルガとともに感染者の治療に当たっていた少年も罹患してしまう。オルガは少年に秘薬を含ませると、頭だけを出して土に埋め、四方に火を焚く儀式を執り行う。少年は恢復するが、村人たちの少年に対する憎悪は高まっていた。川で網を使って漁をしていた村人の一人が手に怪我を負った際、たまたま近くで釣りをしていた少年が原因と考えた村人は、少年を脅して川に落としてしまう。
少年は水車小屋に流れ着く。小屋の主人であるミレル(Udo Kier)は災いをもたらすと反対するが、ミレルの妻(Michaela Dolezalová)が少年を受け入れる。妻は少年に失った息子の姿を重ね、息子の被っていた帽子などを彼に身につけさせる。ミレルは、自分より若い使用人(Zdenek Pecha)と妻が密通しているとの疑いに取り憑かれ、妻と使用人の動向に常に目を光らせている。妻が使用人と目を合わせるだけでひどく嫉妬にかられ、妻を激しく打擲するのだ。ある雨の日、ミレルは、何かもぞもぞと動くものを入れた布袋を持ち帰る。ミレルは部屋の中に袋を置くが、何の説明もしないまま、ミレルと妻、使用人が食卓に座り、夕餉が始まる。少年は部屋の隅で3人の様子をうかがっていた。

 

第二次世界大戦下の東ヨーロッパにおける、迫害を受ける少年(Petr Kotlár)の逃避行。モノクローム作品。
冒頭から少年が逃げ、捕まり、殴られる。少年は悲惨な目に遭うたびに何とか逃れるが、逃れた先には必ず新たな苦難が待ち受けている。説明らしい説明は無く、またそうであればこそ、鑑賞者は少年がどうなってしまうのかと画面に釘付けになるのだ。少年は徐々にある種の強さを身につけていく。それを成長と呼ぶには躊躇われるものがあるが、少年の境遇を踏まえれば、少年を責めることは難しい。
オコジョ(?)を燃やす火と家を燃やす火、獣の牙を向ける行為と獣の餌食、騎馬による襲撃と爆撃機による機関掃射など、負が連鎖するようだ。そして、ミートカ(Barry Pepper)の「目には目を」の教えは、少年を突き動かすことにもなる。
権力を持つ者、武器を持つ者、そして、多数派に属する者。彼らが手にする力を濫用し、弱者はそれに抗えずに斃れていく。とりわけ"The Painted Bird"は、少年の姿であり、たとえ監禁された状態から解放されたとしても、多数派により虐げられる少数派の象徴となっている。第二次世界大戦下の世界を舞台にしつつ、現代に通じる、普遍的な寓話になっている。