可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 舩戸彩子個展『茂みの中の雑誌について』

展覧会『舩戸彩子個展「茂みの中の雑誌について」』を鑑賞しての備忘録
TAKU SOMETANI GALLERYにて、2020年10月3日~25日。

成年向け写真誌の女性モデルを撮影したグラビアページに着彩した作品。ページを開いた状態の雑誌が、1誌ずつ、壁面に設置した台座に並べられている。女性モデルは、肌の部分と髪の部分との2つの色面で塗り分けられている。否、塗り潰されていると言うべきか。肌や髪はもとの色合いを反映しているもののそれぞれ一色で平板に塗り込められ、まるで座標のように位置を示す赤い点と化した乳首を除き、胸の膨らみや腰のくびれといった凹凸ないし陰影は一切排除されている。複数の写真(女性モデル)がレイアウトされているページが多く作品化されており、画面の総面積に対する「肌」の占める割合が高いこと、個々のモデルが異なるポーズをとっていることから、パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)が平面的に描いた娼婦の群像《アビニヨンの娘たち(Les Demoiselles d'Avignon)》を連想させる。なおかつ、本作品のアダルト写真誌と《アビニヨンの娘たち》の娼館とは、性的欲求を処理する装置として機能するだけでなく、一種の閉鎖環境のアナロジーとしても共通する。「茂みの中の雑誌について」と題されているが、実際に野外に投棄されていた雑誌を回収したものではなく、中古品を入手して描画してから野晒しにすることで制作されている。もっとも、「茂みの中の雑誌」をシミュレートしているのは間違いない。会場で閲覧できるポートフォリオには受胎告知をテーマにした過去作もあることから、捨てられた雑誌に描画を施し画廊に搬入する行為に、傷つけられ放置された人物に対してオリーブ・オイルや包帯で応急処置をした上、宿屋へ連れて行った「善きサマリア人」(「ルカによる福音書」)の行為を重ねられよう。また、文字が塗りつぶされていることに注目した上で、誌面の前から男根が消え去ったことを幻視すれば、旧約聖書バベルの塔の物語における塔の崩壊と言葉の混乱のメタファーと捉えることも不可能とまでは言えないだろう。もっとも、言葉は信用ならぬもの。真相は常に「茂み(藪)の中」なのである。