可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 清水智裕個展『出現率1%』

展覧会『清水智裕展「出現率1%」』を鑑賞しての備忘録
銀座三越本館7階ギャラリーにて、2020年10月21日~27日。

清水智裕の絵画展。

《遠雷》や《轟音》の佇立する女性像には「震え」を感じる。この「震え」とは、音が波として物理的力を発揮する様と言い換えられる。靄がかかる湿度を感じさせる画面であるがゆえに、かえって障壁をものともせず伝わる振動の威力が強調されるようだ。たとえ他者の存在そのものは表されていないとしても、否、不在であるがゆえに、他者と自己とを自由に往来する共感の力(=共鳴)が感じられる。他者と自己との距離を越えて境界を行き来する感覚は、ディック・ブルーナ(Dick Bruna)の『ミッフィーのおばけごっこ(het spook nijntje)』のように布を被ることで少年が異界へ渡るかのような《ワンダー》、エアコンの室外機を朧月に見立てることで異界へのワームホールを作り上げる《Exit》、アルノルト・ベックリン(Arnold Böcklin)の《死の島(Die Toteninsel)》の向こうを張るかのように都市に不意に姿を現した生命の(bio)場(topos)である《ビオトープ》などの作品に通底するものだ。ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(Vincent van Gogh)の《靴(Schoenen)》を髣髴とさせるブーツを描いた作品を《箴言》と題するのは、世の中を渡るため身につける知恵のメタファーであろう。