可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 奥谷葵個展『日本昔話』

展覧会『奥谷葵展「日本昔話」』を鑑賞しての備忘録
JINEN GALLERYにて、2020年10月20日(火)〜11月1日。

洋館の壁紙を思わせる落ち着いたベージュの画面に西洋風に表された日本の昔話にまつわるモティーフを鏤めた絵画で構成される奥谷葵の個展。

《舌切り雀》には、写真のように精密に描かれた雀のカードが画面にテープで貼られている。カードの一部には挟みが入ったように切り取られているが、切り取られた部分をテープで留めてある。切り取り線のような破線が画面を大きく蛇行しながら横切っている。パピエ・コレに見えるが、黄ばんだ紙やテープも含め全て描かれたものだ。スズメ、切り取り、糊(貼る)という「舌切り雀」の要素を鏤めた一種の留守模様であり、トロンプ・ルイユでもある。
《兎と亀》は、手を繫ぐ姉妹のような2人の少女の後ろ姿のイラストが貼られている。妹(?)の頭に耳、腰に尻尾。姉の背には♯を丸で囲んだものがそれぞれ描き込まれている。無論、兎と亀の見立てである。イラストの上部を留めるのは、スタートラインを示すようなチェックのテープだ。画面下部にはイラストを留める役割をも果たすテープの切れ端は、画面を横切るようにリズミカルに貼られ、ぴょんぴょんと跳ねるイメージを引き出している。全て描かれたトロンプ・ルイユである。「妹」を兎に、「姉」を亀にキャスティングすることで末子成功譚の系譜から外すひねりも加えられている。
かぐや姫》は、画面下部にウェディングドレスの新婦とスーツの新郎の姿。その上部、画面を大きく占めているのは、縦横に貼ったテープで表現された巨大な月。この月を大きく配するバランスが、SF作品のスペクタクルを画面に呼び起こすことに成功している。無論、全ては描かれたものである。
《鶴の恩返し》には『不思議の国のアリス』のアリスを描いたようなイラストが貼られた上に、左右にパラフィン紙が古いものと新しいものとが二重に貼られている(ように描かれている)。カーテン越しに少女を覗き見るような構図になっているのだ。兎穴に落ち、部屋に閉じ込められる、体が変化するといったアリスの姿を自ら部屋に閉じこもる鶴に擬えるのだ。
一寸法師》における「シュレッダー」の表現、《かちかち山》におけるモザイクの表現など、その他の作品にも様々な仕掛けが凝らされていていずれの作品にも強く興味がそそられる。