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芸術鑑賞の備忘録

映画『キーパー ある兵士の奇跡』

映画『キーパー ある兵士の奇跡』を鑑賞しての備忘録
2018年製作のイギリス・ドイツ合作映画。119分。
監督は、マルクス・H・ローゼンミュラー(Marcus H. Rosenmüller)。
脚本は、マルクス・H・ローゼンミュラー(Marcus H. Rosenmüller)、
ニコラス・J・スコフィールド(Nicholas J. Schofield)、ロバート・マルチニャク(Robert Marciniak)
撮影は、ダニエル・ゴットシャルク(Daniel Gottschalk)。
編集は、アレクサンダー・バーナー(Alexander Berner)。
英語題は、"The Keeper"。独語題は、"Trautmann"。

 

第二次世界大戦中のイギリス。セントへレンズにあるミュージックホールでは、マーガレット(Freya Mavor)とベッツィ(Chloe Harris)が、スウィングジャズに合わせてチャールストンを夢中で踊っている。突然、近隣で爆発音がする。司会者が落ち着くようアナウンスするが、ミュージックホールにも爆撃が及び、天井が一部崩落すると、人々は大慌てで逃げ出す。転倒したマーガレットは取り残される。
1944年、ドイツのクレーヴェ近郊の森。ドイツ軍の落下傘兵ベルンハルト・トラウトマン(David Kross)は連合軍と交戦し、被弾した戦友とともに飛ばされて倒れていたところを捕らえらた。彼はイギリスのアシュトン=イン=メイカーフィールドにある捕虜収容所に移送される。ブレッドソップ大佐(Ian T. Dickinson)が新たに送られてきたドイツ兵捕虜たちを前に宣告する。ここでは諸君は人道的に扱われる。諸君の国が与えた戦災を償うよう割り当てられた労働に精励し給え。ヤヴォール! 違う。ここではイエッサーだ。イエッサー! ベルンハルトはスマイス軍曹(Harry Melling)から尋問を受ける。やむを得ず兵士になったのか、それとも志願したのか。答えようとしないベルンハルトに苛立つ軍曹。私に権限があれば全員処刑してもいいんだ。貴様らはツいてるよ。何がおかしい。俺がツいているからだ。ベルンハルトは便所の清掃を割り当てられる。作業中、中庭でサッカーに興じている捕虜を見てベルンハルトは思い立つ。タバコを賭けてPKで勝負しよう。俺がゴールを防いだらタバコをいただく。ゴールを決めたら倍の本数にしよう。ベルンハルトは次々と挑戦を受けてことごとくボールを弾き出す。捕虜収容所に出入りしている食料雑貨店主ジャック・フライヤー(John Henshaw)がベルンハルトを見かけてキーパーのセンスに惚れ込む。ジャックは地元セントヘレンズのサッカークラブのオーナー兼監督をしていた。手伝いに付いて来ていたジャックの娘マーガレットは、私にも挑戦させてとベルンハルトに勝負を挑む。PK合戦で盛り上がっている捕虜たちをスマイス軍曹が見咎めて解散させる。ジャックも捕虜たちと関わって問題を起こされたら上客との関係が途切れてしまうとマーガレットを注意する。マーガレットを車でミュージックホールに送った。そこへ羊肉を背負ったクライヴ・ソーントン(Angus Barnett)が通りかかる。明日の試合で勝ったら20ポンドでこの肉を売ってやろう。でも負けたら40ポンド支払えよ。リーグ降格のかかる試合でもあり負けられないジャックは賭けに応じる。ジャックはミュージックホールに入っていき、バンドに演奏を中止させる。マーガレットと交際しているキャプテンのビル・トゥイスト(Michael Socha)に声をかけ、試合に備えて帰宅させるよう指示する。ビルは皆に明日のために帰ろうと選手たちに声をかける。もっとも、トランペットを吹いているキーパーのアルフ・マイヤーズ(Mikey Collins)だけはジャックがどんなに説得しても従おうとしなかった。サッカーと音楽は別物だと。翌日、ジャックは捕虜収容所に車を飛ばす。高級タバコを手土産に上層部を口説き落とし、ベルンハルトを連れ出すことに成功する。ジャックはベルンハルトを「バート」とイギリス式に呼び、首に白い布を巻くよう言う。サッカーの試合に出ろ。ノーだ。ノーだと? ドイツではこういうときにノーと言うのか。イギリスでもドイツでも同じノーだ。お前は便所くさいぞ。便所で働くのとサッカーをプレイするのとどっちを選ぶんだ。バートは白い布を巻く。バートを選手の控え室に連れて行ったジャックは、選手たちに戦争で声を失ったんだとバートを紹介する。風邪を引いてね、と早速しゃべり出すバート。何だ、ドイツ人か。選手たちは監督が「敵国」の人間を連れてきたことに不満だ。それでも最近勝ち星がなく、今日勝たないとリーグから外れてしまうことを訴えて、何とかバートを試合に参加させることに成功する。キーパーを外されたアルフは憤然として恋人のベッツィを連れて立ち去ってしまう。突如現れた謎のキーパーはゴールネットを揺らさせることは無かった。結局、3-0でセントへレンズFCが快勝する。捕虜収容所に連れ帰る際、バートはジャックに告げる。俺を使いたければもっと連れ出せ。バートはダッシュボードのタバコをくすねて車を降りる。ジャックは圧倒的な勝利を収めて上機嫌。だが帰宅すると、妻のクラリス(Dervla Kirwan)も母のサラ(Barbara Young)、そして娘のマーガレットやバーバラ(Olivia-Rose Minnis)に至るまで相談もなくドイツ人を連れてくるなんてと不満たらたらだった。だがジャックは自分の店でバートを働かせることに決めていた。翌日、早速働きに来たバートに対し、マーガレットは興味を持ちつつも警戒して寄せ付けない。一方バートは妹のバーバラと仲良くなってゆくのだった。

 

ドイツ軍兵士としての過去を持つバート・トラウトマン(David Kross)がイギリスでサッカー選手として活躍する実話を元にした作品。
赦しとともに、「加害者」をモンスターとして袋だたきにする群集こそモンスターであることを描き出す。
"Bert"と音でかけているわけでもなかろうが"bird"が重要なモティーフとなっている。バートが身につけているネックレス、ジャックの食料雑貨店で売られている鳥。
たとえサッカーについて知らなくても、キーパーは後ろにあるネットにボールを入れられないようにしなくてはならないということが分かれば問題ない。
一種の戦争映画ではあるが、極めて穏当な描写のみで構成されているため、あらゆる人に開かれた作品となっている。