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芸術鑑賞の備忘録

映画『泣く子はいねぇが』

映画『泣く子はいねぇが』を鑑賞しての備忘録
2020年製作の日本映画。108分。
監督・脚本・編集は、佐藤快磨。
撮影は、月永雄太。

 

宴席でなまはげが子供たちを威かしている。怖がり泣き出す幼い子。なまはげに連れ出される子。母親にすがりつく子。一番奥にいたなまはげ。その鬼面の奥の目。
サクラバスポーツの白いワゴン車が男鹿市役所の前で停まる。後藤たすく(仲野太賀)が車を降りて正面玄関に向かう。年末の休庁日で入れない。休日窓口にまわる。窓を叩いて担当者(高橋周平)を起こす。出生届を出したいんです。若いのに、お子さんの名前は? 「なぎ」です。コピーをとっておけば良かったっていう人もいるけど、必要ないかな? たすくはサクラバスポーツの住居兼店舗へ。シャッターに正月飾りを取り付け、家の中へ。きちんと固定されていない正月飾りが落ちる。なぎが泣いているが、たすくはうまくあやすことができない。そこへ桜庭ことね(吉岡里帆)が来て、なぎを寝かしつける。台所の前のテーブルに座る二人。たすくはことねに婚姻届を渡す。なんで2枚あるの? ここ間違ってる。何にも考えてないでしょ。このまま結婚してもいずれ限界が来る。病気を患っていることねの父(猪股俊明)が喉が渇いたと台所に出てくる。冷蔵庫を開ける。牛乳はないんだな。お義父さん、買ってきますよ。義父は流しにあったガラスコップを手に取る。それはお下がりですよ。御神酒を飲み干す義父。空っぽになった。義父は寝床へ戻る。義父の苦しそうな咳が聞こえる。行かなきゃならない。行っちゃうの。夏井さんに頼まれてるから。お酒は止めてよ。呑まずに早く帰る。たすくは、なまはげ保存会の寄合へ。実家の製材所を継いだたすくの兄・悠馬(山中崇)や母・せつこ(余貴美子)の姿もあった。代表を務める夏井康夫(柳葉敏郎)がたすくを見かけると傍により、さっと祝儀袋を差し出す。受け取れませんよ。忙しいところを来てもらってるから。夏井が皆の前で挨拶をする。うちの地区は皆の参加で無事伝統を引き継ぐことができました。今後のためにも皆さんには子作りにも励んでもらいたいところです。なまはげたちは神社に向かい、神官に祝詞をあげてもらう。そしていよいよなまはげの一団が地元の家を訪ねていく。突然のなまはげの登場に驚き、逃げ惑う子供たち。その様子を微笑ましく見つめる大人たち。移動しながら、志波亮介(寛一郎)から「水」を勧められたたすくは固辞していたが、遂に口を付けてしまう。今回はABS秋田放送の生中継が入った。アナウンサー(関向良子)からインタヴューを受けた夏井は「泣く子はいねぇが」と声を上げ上機嫌。なまはげの意義について熱く語っていた。カメラになまはげの面をした裸の男が見切れる。酔っ払ったたすくだった。たすくは一人歩き続け、砂浜に倒れ込む。
2年後。たすくがフットサルのコートで倒れていた。シミュレーションでファウルにしますよ。審判に立ち上げるよう促されるたすく。本当に起き上がれないんです。なまはげを葬りかけた事件の後、たすくは全てから逃げ出すように東京に出て生活を送っていた。

 

子供ができた後藤たすく(仲野太賀)が、父親としての覚悟を決められず、妻子を置いて逃げ出してしまった後の顚末が、彼のなまはげとの関わりに絡めて描かれる。
責任、失敗、そして赦し。仲野太賀がどうしようもなく情けない男を飄々と演じ、吉岡里帆が覚悟と赦しを体現する母親で魅せる。
台詞が聞き取りづらいところ、分かりにくいところがあるが、そこには、言葉に頼らず画で見せようという姿勢が窺えた。
「泣く子はいねぇが」というタイトルに映画のエッセンスが籠められている。鬼面の奥に光るものがあるだろう。
音楽(折坂悠太)が作品と見事に調和している。
シロクマのことを考えてはいけないと言われると、シロクマのことを考えざるをえないのだ。