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芸術鑑賞の備忘録

映画『ヒトラーに盗られたうさぎ』

映画『ヒトラーに盗られたうさぎ』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のドイツ映画。119分。
監督は、カロリーヌ・リンク(Caroline Link)。
原作は、ジュディス・カー(Judith Kerr)の小説「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ(When Hitler Stole Pink Rabbit)」。
脚本は、カロリーヌ・リンク(Caroline Link)とアナ・ブリュッゲマン(Anna Brüggemann)。
撮影は、ベラ・ハルベン(Bella Halben)。
編集は、パトリシア・ロメル(Patricia Rommel)。
原題は、"Als Hitler das rosa Kaninchen stahl"。

 

1933年2月。ベルリン。カーニバルに思い思いの扮装で参加している子供達の歓声が建物の中に響いている。お芝居をしたり、ゲームに興じたり、ご馳走を食べたり。9歳のアンナ・ケンパー(Riva Krymalowski)は物乞いの恰好で参加していたが、テーブルの下に潜り込む。怪傑ゾロに扮する兄マックス(Marinus Hohmann)が隠れているアンナを見付けて声をかける。何でこんなところに? ナチスが来るから。ヒトラーユーゲントの制服に身を包んだ子供たちがやって来る。彼らの中のリーダー格がマックスに声をかける。いい年して怪傑ゾロか。ゾロはナチスに跳びかかり取っ組み合いに。アンナはテーブルの下から姿を現して兄に声援を送る。アンナの持っていたぬいぐるみがナチスの少年たちに奪われてしまう。二人はカーニバルを後にして雪道を家に向かう。家政婦のハインピー(Ursula Werner)が呼び鈴に応じて玄関に顔を出す。「物乞い」はお断りだよ。二人は家の中に入ると、ハインピーから上着を脱ぐように催促される。なんでこんなにびしょ濡れなのかね。夕飯は二人でね。台所の食卓に着いた二人が食事を始める。マックスがマッシュポテトをどっさりとソーセージに載せる。ソーセージを窒息させちゃ駄目だよ。もう死んでるでしょ。出かける準備を終えた音楽家の母ドロテア(Carla Juri)が顔を出す。またコンサート? 今夜は歌劇を観に行くの。マックス、ちゃんと宿題をするのよ。そこへ電話が鳴り、ドロテアが応じる。夕食後、アンナはヒトラーに扮してマックスの部屋にちょっかいを出しに行くが勉強の邪魔だと相手にされない。体調を崩している父アルトゥア(Oliver Masucci)の部屋に向かうと、出かけたはずの母が父と普段とは違う調子で話し合っていた。ベッドに入った後、アンナは再度父のもとに向かう。風邪が移るといけないと制する父に構わずアンナはベッドに横になっている父に抱きつく。病気には愛情が一番効くの。アンナはマックスがヒトラーユーゲントから奪った鉤十字のバッジを見せる。かつては幸福の象徴だったんだが今では愚か者の目印だ。アンナは父に描いた絵も見せる。船が沈没するのか。暗い絵しか描けないの。自分が描きたいものを描けばいいさ。ラジオからは劇作家で舌鋒鋭い批評家のアルトゥアがナチスを批判するメッセージが丁度流れてきた。翌朝、食卓に集った子供たちにドロテアが告げる。昨日の電話は、パパの才能を評価してくれている警察関係者からの警告だったの。次の選挙でナチスが勝利したら旅券が取り上げられてしまうって。だからパパは一足先に今朝スイスに旅立ったの。このことは誰にも言っては駄目よ。

 

ベルリン在住のユダヤ人のケンパー一家がナチスの迫害を逃れるために強いられた亡命生活を描く。
アンナが全幅の信頼を寄せている家政婦ハインピー(Ursula Werner)との別離、スイスで滞在した宿の娘(Held Alina)との交流(アンナが樹上から靴を投げるシーン)と別れ(二人が床に毛皮を被って横になっている)がとりわけ強い印象を残す。
アンナが親しんだ家具や建物に去り際に声をかけていく。別れを告げる言葉がドイツ語"Auf Wiedersehen!"からスイス方言のドイツ語"Uf Wiederluaga!"(これで合っているか不明)、フランス語"Au revoir!"と移り変わる。ドイツ語とフランス語もともに「再见」を表すのが切ない。
残酷な描写が一切無いにも拘わらず、ケンパー一家の窮状をしっかりと表現し、それを乗り越えていく姿を描き出して見せる。