可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『100日間のシンプルライフ』

映画『100日間のシンプルライフ』を鑑賞しての備忘録
2018年製作のドイツ映画。111分。
監督・脚本は、フロリアン・ダービト・フィッツ(Florian David Fitz)。
撮影は、ベルンハルト・ヤスパー(Bernhard Jasper)。
編集は、アナ・デ。ミエーリオルトューノ(Ana de Mier y Ortuño)とデニス・バフター(Denis Bachter)。
原題は、"100 Dinge"。

 

曾祖父母の持ち物は57個だった。曾祖父は第一次世界大戦に従軍して右足まで失った。祖父の時代の持ち物は200個。ナチスに入党した祖父は敗戦で多くを失ったが、新しい時代に希望を持った。両親の持ち物は650個。東ドイツの生活はベルリンの壁とともに崩壊した。僕らの持ち物は1万個。
パウル(Florian David Fitz)がシーツに包まってベッドに寝ている。パウル、起きて。何時? 9時半。何だって! 一方、アイマスクをつけたトニ(Matthias Schweighöfer)はアラームが鳴るとともにベッドから起き上がる。エスプレッソ・マシンでコーヒーを入れ、いくつか筋トレのメニューをこなすと、プロテイン入りのミックスジュースを飲む。肌や歯、体臭、何より頭髪の手入れに余念が無い。パウルは再び寝入っていたが、ナナからアディダスの限定モデルの抽選販売があると囁かれると、スマートフォンを探し出す。ナナ、どこだ、ナナ? ここよ、ここ。ようやく「ナナ」がインストールされたスマホを手にするとアディダスのサイトにアクセス。見事、購入に成功。そのままスマホを手に愛らしい猫に笑って、その後ポルノ動画でオナニーに興じていると、呼び鈴が鳴る。身だしなみを整えたトニが迎えに来ていた。何で息が切れてるんだ。筋トレだよ。何で勃起してるんだ! パウルにシャワーを浴びさせ、トニが衣装を探す。ジャケットはコーヒーマシンの近くの箱にある。コーヒーマシンの傍には沢山の箱が並んでいる。カニエ・ウェストのスニーカー、白いのを。白いシューズは棚から溢れるほどあった。トニの助けを借りてパウルが身支度を終えると二人は階段を駆け下りる。幼馴染みの二人のじゃれ合いはアラフォーになった今も変わらない。油受けが故障しているパウルの黄色い車で向かうのは、アメリカのIT長者デイヴィッド・ザッカーマン(Artjom Gilz)が開催するアイデアコンテスト。予想に反して待合室のホールは来場者でいっぱい。二人の受付番号は「684」。自信を喪失するパウル。トニが隣にいた二人組にアイデアを尋ねると、消費社会のアンチテーゼとしてモノを一切持たないミニマルな生活を提案するという。6時が迫り、二人が椅子で寝ていると、「684」が呼ばれる。プレゼンを行う部屋には、司会のアントニエッタ・ケルヒャー(Maria Furtwängler)を中心に二人の男性が座っていた。3人のテーブルの隣には厳めしい警備員が立ち、彼の足元にはカメラが。ザッカーマンはそのカメラの向こうにいるわ。彼はオーストリアの国家予算に優る、いいえその3倍は優に稼いでいる方。明日のスティーブ・ジョブズを見つけるために企画されたの。まあ、そんな人がいるわけないんだけど。もう13時間も経っているから、さっさと始めて。シッターの時間を延ばせない。トニが切り出す。我が社のスマートフォン用アプリ「ナナ」をご紹介します。開発したのは友人のパウルです。パウルは、声や使用状況などからユーザーの気分や状態を読み取り、適切な対応ができる「ナナ」によって、ユーザーの幸福をサポートしたいと訴える。トニは、パウルの行動経路を入力した地図を示す。パウルが「ナナ」を使用した結果、その行動が「ナナ」に誘導され、提案された通りのアイテムを購入していることを紹介する。自分が関知せずトニにアプリのモルモットにされていたことを知ったパウルは憤慨、二人は揉め出す。いい加減帰らないとシッターのシッターの生活が破綻し、ドイツに極右政権が誕生してしまうと立腹するケルヒャー。彼女の電話が鳴る。400万ユーロで「ナナ」を買い取りたいとザッカーマンが連絡を寄越したのだった。

 

過去の恋人を引きずってスマートフォンに逃避するパウル(Florian David Fitz)と、幸せの欠乏感から理想像に囚われて神経質に陥っているトニ(Matthias Schweighöfer)の幼馴染みの二人が、酔って勢いで100日間モノを買わないで生活することができるかの賭けをした、二人の勝負にトニの会社の社員の利害も絡み、持ち物ゼロの状態から1日1つだけ倉庫に保管された私物を取り出せるというルールが付け加えられる。二人の勝負の顚末を描く。テンポよく展開するコメディ。
自宅から倉庫まで私物を取りに行かなければならない徒労、スマホその他が仕えないことから来る時間の停滞など、モノが失われたことによる不便さが前半で描かれる。次第に、石鹸で手洗いした服を日光や風で乾かすなかで都会の中にある自然を感じるシーンなど、モノのない状況に適応していく姿が描かれる。トニがルーシー(Miriam Stein)をモノのない部屋でもてなすシーンなどが魅力的。
パウル(Florian David Fitz)とトニ(Matthias Schweighöfer)の主演二人は文字通り体を張った演技。幼馴染みを熱演。ベティ(Sarah Viktoria Frick)というトニの会社のスタッフが笑いにスパイスを利かせている。