可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 岩崎貴宏個展『針の穴から天を覗く』

展覧会『岩崎貴宏個展「針の穴から天を覗く」』を鑑賞しての備忘録
ANOMALYにて、2020年12月5日~2021年1月31日。※当初会期1月16日までを延長。

岩崎貴宏の個展。

《アウト・オブ・ディスオーダー(針の穴から天を覗く)》は、日用品を組み合わせて再現した地上の植生から地下の地層までの環境を、「地層剥ぎ取り標本」のように断面として呈示した作品。使用されている日用品は衣類や綿棒などで、糸や毛が葉などの、綿棒が枝などの、衣類が褶曲する地層などのイメージを的確に表している。素材は黒色系でまとめられ、漆黒の闇をイメージさせる。最上部の木々の梢の辺りには、有名メーカーなどの企業のロゴ(ワッペン)が貼り付けられている。ロゴにはコーポレートカラーがそのまま用いられているため、夜の山道の向こうに姿を現した煌々と輝く看板のように見える。とりわけ、ENEOSやEssoが紛れていることから、作品の下半分に広がる「地層」に石油が集積する「背斜」が透けて見えることになる。石油会社に限らず、地中深くに眠る石油が燃やされることで地上の社会が動かされていることを表現しているようだ。

コンステレーション》は、黒いフィルムに無数の穴が開けられて、その背後から白い光が当てられることで、「星座(constellation)」を意味するタイトルと相俟って、夜空に輝く星々が見える作品。しかしながら、近づいて見ると、1つ1つの白い点が有名企業のロゴになっていることが分かる。会場周辺のコンビニエンスストアやファーストフード店を初めとするチェーン店のロゴが、実際の位置関係に基づいてマッピングされているらしい。《アウト・オブ・ディスオーダー(針の穴から天を覗く)》が社会の「断面」を切り出すものとすれば、《コンステレーション》は社会を上空から俯瞰する作品となろう。
ところで、《コンステレーション》のイメージは飛沫の拡散(のシミュレーション画像?)に擬えることも可能だという。これまで作家は日用品を風景に見立てる作品を制作してきた。例えば、衣類や布から糸を取り出して鉄塔などの構造物を拵えることで、衣類や布が山肌として姿を現すような作品である。鉄塔と架空送電線(何とも想像力が広がる名称だ)。「送電」と「感染」とは同じ"transmission"で表せる。SNSによる情報の拡散と飛沫によるウィルスの拡散とはアナロジーである。人々を繋げることとは、人々を感染させることでなくて何であろう。

歴史的に、グローバル化パンデミックは表裏をなす。1918~19年のスペイン風邪は、第一次世界大戦で兵士が世界中を移動して感染を広げた。19世紀初頭に大流行したコレラは、インドの一地域の感染だったが、大英帝国の植民地ネットワークで広がった。16世紀には、西洋人が新大陸に持ち込んだ天然痘が爆発的に広まった。中世を終わらせた14世紀のペストも、モンゴル帝国が中国の一地方から欧州へ菌を運んだ。今回は、ITベースのグローバル化の下でコロナ禍が起きた。(吉見俊哉インタビュー(聞き手:鈴木英生)「持続可能なグローバル化」『毎日新聞』2021年1月13日11面)