可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 東真里江個展『いきづき』

展覧会『東真里江展「いきづき」』を鑑賞しての備忘録
JINEN GALLERYにて、2021年2月2日~7日。

東真里江の絵画16点と陶土を用いた球体(「不完全な球体」シリーズ)7点を展示。

《煌めき》は、赤錆の浮いた鉄板を思わせる、赤褐色のゴツゴツとした表面を持つ絵画。アクリルガッシュの他に紅茶を用いて着彩してあり、黒い粒は紅茶の葉である。くすんだ画面に対して「煌めき」とのタイトルが採用されているのは、輝きの不在を表すためであろうか。確かに、金属の腐食のような風化を思わせる画面から、かつて金属の光沢が存在したことを想像することは難くない。しかしながら、作者は、火星の地表のような表面に「煌めき」を感じ取ることをこそ求めているのではなかろうか。《ほどける》や《蠢き》などの木炭で描いたシリーズ、オイルパステルと木炭で描いた「残痕」シリーズにおいて、引っ掻き傷のような表現が積極的に用いられていることからも、作者が傷つくこと(=経年変化)によって生まれた表情を評価していることが窺えるのである。人の容姿に対して「劣化」という表現を向ける発想とは異なる感性を提示しているとは言えないか。
表題作の《いきづき》もまた、緑青の浮いた銅板のような作品だ。"stillleven(動かない生命)"という静物画の語源を思わせる静寂のイメージを持っている。だが、黴の生えた様子を捉えたものと捉え、肉眼では認識できない微生物が息衝いている様を描いたとも解しうる。そのとき、"stillleven"は「密やかな生活」として姿を現す。
この他にも、暗く冷たい印象を持つ作品には《青焔》との題名が付されている。画面(イメージ)と対立するかのようなタイトル(言葉)とを結合させることによる「錬金術」的企てが見て取れるだろう。